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タイガー・ウッズの“不倫騒動”だけではない? ナイキがゴルフクラブやボールから撤退した本当の理由
text by
荒木博行Hiroyuki Araki
photograph byGetty Images
posted2021/11/11 06:00
2000年の全米オープンで2位に15打差をつけて優勝したタイガー・ウッズ。ナイキのボールの名声も高まったが……
2016年8月、ゴルフ用具からの撤退を表明
その後、ウッズは復帰するものの全盛期とは程遠い状態が続きます。怪我が相次ぎ、あれだけ勝っていたメジャー大会でも未勝利のまま。さらに、ローリー・マキロイなどウッズ以外のナイキの主要契約プレイヤーも、メジャー大会で期待通りに勝てないシーズンが続きました。
ここにゴルフ全体の市場停滞も加わり、ナイキのゴルフ事業は不振が続きます。2015年5月期には対昨年比で2%の売上減少、翌2016年には8%の減少となり、2年間で総額9000万ドルもの売上を落とす事態に陥ったのでした。
この業績結果を受け、2016年8月、ナイキはゴルフ用具(クラブ、ボール、キャディバッグ)から撤退し、アパレルとシューズに絞ることを表明します。
同年5月にはアディダスがテーラーメイドを売却することを発表していたこともあり、これらのスポーツメーカーの相次ぐゴルフ用具からの撤退は、ゴルフプレイヤーにも大きな衝撃を与えるとともに、ゴルフ用具市場の厳しさを伝えることにもなりました。
参入して17年間、天才プレイヤー、タイガー・ウッズとともに成長したナイキのゴルフ用具事業の終わりを導いたのは、ほかならぬウッズだったというわけです。
隣接しているものの、全く異なる事業に参入したことが敗因
なぜナイキはゴルフ用具事業から撤退することになったのでしょうか。
それはゴルフ用具事業に対して、ナイキの強みが活かせなかったからです。ナイキはご存知の通り、スポーツのアパレルやシューズにおけるトップブランドとしての地位を築いています。しかし、それ以外のスポーツ用具系(=ハードウエア)のビジネスには、成功しているものはほとんどありません(ホッケー用具も、ナイキは2005年にバウアーとパートナーシップを組んで参入しましたが、2008年に解消して撤退します)。
その理由は、ナイキがスポーツ用具を製造する際に求められる金属素材の知見や加工・生産技術を保有していないことにあります。ゴルフボールもクラブもその大半はOEMという生産委託の形式であったため、ビジネスとしての利益率は低く、そして技術的な強みが積み上がっていきません。その中で、プレイヤーからは技術的なアドバンテージが求められ続けるというとても難しい位置付けのビジネスだったことが想像できます。