ゴルフPRESSBACK NUMBER
タイガー・ウッズの“不倫騒動”だけではない? ナイキがゴルフクラブやボールから撤退した本当の理由
text by
荒木博行Hiroyuki Araki
photograph byGetty Images
posted2021/11/11 06:00
2000年の全米オープンで2位に15打差をつけて優勝したタイガー・ウッズ。ナイキのボールの名声も高まったが……
ナイキはウッズと5年間で1億ドルの契約を締結
この結果、それまではプレイヤー間では糸巻きボールが主力だったにもかかわらず、翌2001年のオーガスタでは4人を除く全てのプレイヤーがソリッドコアのボールを選びます。それだけ、ナイキとタッグを組んだウッズ優勝のインパクトは大きいものがありました。
2014年にウッズは当時を振り返って、こう語ります。
「僕の中でいちばん大きな変化は2000年。そのボールを使ってメジャー大会で4連勝して、そしてその後のことは周知の通り。糸巻きボールテクノロジーは、完全に消え去った。みんな変えたんだ。そのイノベーションの波の一部になれたことは、とても興奮することだった」
ナイキはウッズと2001年から5年間で1億ドルというスポーツ界史上最高額となる広告契約を新たに締結します。さらに、ウッズ以外にも、ゴルフ用具においてポール・エイジンガー、クリス・キャンベル、デビッド・デュバルといったビッグネームとの契約にも成功します。
加えて、ナイキは2001年にゴルフクラブやキャディバッグの販売を開始し、名実ともに総合ゴルフメーカーとなります。2002年からはウッズもナイキのクラブを使用することとなり、ウッズの黄金期と歩みを共にします。
ウッズは全米オープン、全英オープン、全米プロ選手権、マスターズの全てで優勝するグランドスラムを幾度も達成し、若くして世界最強のゴルファーとして君臨することとなりました。そして、ウッズに注目が集まれば集まるほど、ナイキはそのブランド価値を高めていったのです。
このウッズ全盛の時代、ナイキのゴルフ事業における2008年の売上は過去最高の7億2500万ドルを記録し、その栄華を極めたのでした。
ナイキがぶつかった2つの大きな壁
ウッズとともにゴルフ用具業界において急成長を遂げてきたナイキでしたが、最高売上に達した2008年の直後、大きな壁にぶつかります。
1つは、2008年9月に起きたリーマンショックです。ゴルフは富裕層をターゲットにしているため、この景気後退はナイキのゴルフ事業の成長に大きな影を落とします。
さらに、もう1つは広告塔であるウッズの身に起きた出来事の影響です。ウッズは2008年の全米オープンで優勝を成し遂げますが、膝の手術のためにそれ以降の全ての試合を欠場するという事態になります。さらに、翌2009年は無事に怪我から復帰するものの、11月に不倫騒動が起き、この事件は関係相手の数の多さも相まって一大スキャンダルに発展します。
この影響を受けて、ウッズはゴルフ活動を一時休止せざるを得ませんでした。そして、ナイキはこのウッズのスキャンダルの打撃をまともに受ける形で、2009年の売上は6億4800万ドルと前年比11%減少という結果になるのです。