熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
ネイマールの「唐突すぎる代表引退宣言」に思う“フットボールの多様性”とは 《毒を併せ持つ賛否両論のスター》だからこそ…
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byTakuya Sugiyama/JMPA
posted2021/10/20 11:02
ロシアW杯でのネイマール。カタール大会が本当に“最後のW杯”となるのだろうか
元フランス代表MFでPSGでもプレーしたジェローム・ロタンは「数カ月前にクラブとの契約を延長した選手が言うべきことじゃない。意欲、情熱、クラブへの愛が感じられない」と辛辣だ。
所属先であるPSGのマウリシオ・ポチェッティーノ監督は、地元メディアから質問を受けると「彼が何らかの問題を抱えているとは思わない。フットボールを楽しんでおり、今後も長くPSGでプレーしてくれると信じている」と火消しに大わらわだった。
ブラジル代表におけるネイマールの実績は、近年のブラジル選手の中で群を抜く。
115試合に出場して通算70得点をあげており、ペレの77点得点記録まで7点。2022年W杯南米予選が残り7試合で、いくつかの強化試合、そして2022年W杯で数試合プレーすると考えると、2022年W杯終了時点でペレの得点記録を更新している公算が高い。W杯予選での通算13得点は、11得点のジーコ、ロマーリオを上回って歴代最多だ。
ピッチ内でのマナーの悪さ、ピッチ外でのスキャンダル
代表にこれほど貢献している選手なら、本来は国民的英雄であってしかるべきだろう。ところが、実際にはそうではない。毀誉褒貶が相半ばする。
創造性に満ちた華麗なプレーや高い決定力が賞賛される一方で、「お前の年俸なんて俺の週給にも満たないぞ、と小馬鹿にされた」などと証言する選手が多く、マナーの悪さが指摘されてきた。激しいタックルや暴力的な反則を受けて苦しんできたのは事実だが、あからさまなダイビングやシミュレーションを繰り返して嘲笑を浴びてもきた。
ヒールリフト(両足の間にボールを挟み、マーカーの頭越しにボールを跳ね上げて抜き去る)などのトリッキーなプレーでファンを喜ばせる一方で、それを挑発と受け取って憤る選手がおり、イエローカードで処罰する審判もいる。
ピッチ外では、ブラジルとスペイン両国で再三、所得隠しや脱税の容疑をかけられてイメージを落とした。二度に及ぶ性暴力容疑で、多くの女性ファンを失った。自身のSNSで豪華な別荘、自家用機、ヨットなどを誇示することに不快感を示す人も多い。
チアゴ・シウバが言及したように、ネイマールへの批判の多くは彼のピッチ外での言動によるところが大きい。陽気で明るい反面、目立ちたがり屋で、ストレートな物言いが、他人の神経を神経を逆撫ですることがある。人間性が変わらない限り、これからも彼への賛否両論は続くのだろう。
ネイマールがいない方がチームがまとまる?
ブラジルは、2019年の自国開催のコパ・アメリカ(南米選手権)でネイマールを故障で欠きながら優勝した。彼の穴を他の選手がしっかり埋め、チームとしてのまとまりもあった。同じく自国開催だった2021年コパ・アメリカには出場したが、背番号10は徹底マークを受けて不発。宿敵アルゼンチンに痛恨の敗北を喫した。
W杯では、自国開催だった2014年の大会の準々決勝コロンビア戦で脊髄を骨折。エースのいないブラジルは、準決勝でドイツに1-7という歴史的大敗を喫した。4年後の2018年大会では出場したものの体調不良で、準々決勝でベルギーに完敗した。