ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
「日本は適切な戦い方をしたが…」豪州戦を見たトルシエが指摘する欠点<中田英寿にあって、森保一監督にはない>ものとは
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/10/16 17:03
サウジ戦への厳しい評価とは一転、日本代表の戦いぶりを認めたトルシエ。もちろん、予選突破への課題提示も忘れなかった
「大迫もとても良かった。彼のパフォーマンスは素晴らしかった。
同点になってもチームは慌てることなく、森保のコーチングは適切だった。強調すべきはそこで、チームに落ち着きを取り戻させて自信を与え、様々な攻撃のオプションを提供した。
浅野のゴールは素晴らしかった。ディフェンダーの接近を意識しながら正確にボールをコントロールした。本当に素晴らしいゴールだった(公式記録はオウンゴール)。
この勝利で日本は予選突破争いに復帰した。3位(試合終了時点。現在は得失点差でオマーンに次ぐ4位)とはいえ上位2チームとの関係では好位置につけることができた。3位ならば直接突破の可能性は十分にある。すべてはこれからだ。
ただ、ここに至るまでの過程で、日本はアジアにおける優位とオーラを失った。ほぼすべての選手がヨーロッパでプレーしているにもかかわらず、チームはしばしば未熟さを露呈した。ここまでの20年なり30年の歴史がありながら、オーストラリアのような成熟を示すことができなかった。日本は彼らに比べ少しナイーブで未成熟だ。オーラとキャラクター、パーソナリティの多くを失った。このチームにはリーダーがいない。本田のように、チームに多くをもたらす選手だ。
試合はひとつひとつが異なり、それぞれの試合にそれぞれの真実がある。チームは4日間で立ち直った。森保が3人選手を代えて先発させたのは彼の責任の下においてだった。チームはとてもよくプレーし、最後の20分間の森保のコーチングも的確だった。それが日本に勝利をもたらした。サウジ戦の後に森保は厳しい批判に晒されたのだろうが、この試合で彼は試合の価値に見合う仕事を成し遂げた」
チームに戻ったフラム(情熱)
――サウジ戦であなたは、このチームにはフラム(情熱、炎などの意)が欠けていると言いましたが、今日の試合ではそれは感じられましたか?
「コレクティブな面では十分に感じられた。選手個々は話が別だが、コレクティブにはグループを再び見出すことができたし、連帯感も存分に見られた。
対戦したのが素晴らしいチームであったことは忘れてはならない。オーストラリアも能力の高さを存分に示した。彼らは屈強だった。
2点目を決めた瞬間に、控えの選手やスタッフも全員が喜びを表して、そこには一体感が感じられた。フラムが本当に灯ったのは2点目が決まった瞬間だった。このフラムこそは、日本がこれからも自信を持って戦い続けていくための原動力だ。サウジ戦にはなかったアグレッシブさやプレッシングが、日本のフラムを示していた。サウジ戦では何の戦略もプレスもアグレッシブさもなく、相手を自由にプレーさせていた。サウジを困惑させることができなかったが今日は違った。チームは連動し、オーストラリアを混乱に陥れた」