甲子園の風BACK NUMBER
ドラフト1位候補・小園健太が恐れたバッターとは?「どこに投げても打たれる気がした」甲子園“首位打者”の次なる夢は消防士
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byFumi Sawai
posted2021/09/25 11:02
甲子園ベスト8を対象とした大会首位打者に選出されるなど、全国制覇に大きく貢献した智弁和歌山・大仲勝海(3年)
速いストレートは得意中の得意だった。理由は「打ったら一番気持ちがいい球種だから」。安直な発想に思えなくもないが、それだけしっかり振り切れる自負があった。去年の練習試合では中京大中京の154キロ右腕・高橋宏斗(中日)のストレートを芯でとらえ、ヒットにした経験がある。
「高橋さんのストレートはズドーンと来る、いかにも剛腕という球質でした。小園君のストレートは速さとキレがあって、厳しいところにコントロールされてくる。でも、自分にとってはどちらも打てない球ではなく、バットは振れていたと思います」
さらに小園は多彩な変化球を持ち、同じ球種でも曲がり幅が微妙に違うものもある。打者にとっては厄介だが、大仲には変化球に対してもネガティブな思考はなかった。
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「小園君の変化球は、大きく曲がったり小さく曲がったり、手元で曲がったり落ちたり色んな変化をするので、曲がる前に振れるよう打席の前に立ちました。ただ、中途半端なスイングをするのは絶対ダメなので、思い切って振りました」
マウスピース着用の理由
小園に4安打完封を喫した近畿大会の準々決勝。結果的にセンバツ出場が絶望的になった試合は大仲自身も無安打に終わったが、無観客だった「わかさスタジアム京都」では大仲の声が大きく響き渡っていたことを記憶している。自身の結果に左右されず、チームの空気を暗くしない。悔しい結果に終わった中でも、常に前向きな姿勢は貫いていた。
“最終ラウンド”の今夏の県大会決勝も、大観衆に負けない元気な声が二塁のポジションから響いていた。そして1-1で迎えた7回に、大仲は右前に勝ち越し適時打を放っている。
「変化球が来るのは分かっていたのですが、変化球狙いでいくと詰まると思ったので、ストレートのタイミングで振ったら右方向へ飛びました」
実は、大仲は夏の大会前に大きなアクシデントに見舞われていた。6月下旬の練習でノックを受けた際にボールが口元に直撃し、前歯が2本、内側に曲がってしまったのだ。その後の矯正治療の最初の約2週間は、食事は流動食のみ。大会前にスタミナをつけるはずがまともな食事ができず、不安でストレスが溜まり、口内炎に悩まされた時期もあった。
「お母さんがご飯を柔らかくした弁当や、手のかかる食事を毎日用意してくれました。本当に感謝しています。だから試合で勝って恩返しをしなきゃいけないと思っていました」
矯正器具をつけたまま試合に臨み、甲子園でも歯の保護のためマウスピースを使用した。今でも前歯の神経が正常に戻っておらず、不安が残る。だが、辛いそぶりは全く見せず、甲子園でも元気に声を出し、仲間を鼓舞した。