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後輩から「まだ代表で戦って欲しい」…現役続行決断の入江陵介が感じた「必要とされる嬉しさ」<目標は5月の世界選手権>
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byNaoya Sanuki/JMPA
posted2021/09/12 11:01
今大会、日本競泳陣の最年長だった入江。メドレーリレー決勝前に武良(左)らに言葉をかけるなど、競泳陣を泳ぎ以外でも支えた
だが、入江はそのままでは終わらなかった。続く200m背泳ぎではこの時点で日本男子3人目となる決勝進出を決め、決勝では7位。
「2008年からオリンピックに出場することができて、4大会とも決勝の舞台を味わえたことが幸せでした。苦しい時期もたくさん過ごしてきて、最後に東京オリンピックで泳ぐことができて幸せです」
そしてこうも口にした。
「チームメイトも応援してくれたので、ほんとうに楽しかったです」
それは入江の姿勢があってこその、心からの応援だったのかもしれない。
日本男子唯一のメダルとなる銀メダルを獲得した200mバタフライの本多灯は、準決勝をぎりぎりの8位で通過したあと、不安に襲われたという。そのとき、何人もの選手から声をかけられた。そのひとり、入江からは「8位だからいいんだよ」と言われたと言う。
「決勝はやれるだけやってやろうと思いました」
入江が言葉をかけたのは、自身が100mで準決勝敗退に終わった翌日だった。
日本新記録で6位入賞を果たしたメドレーリレー決勝の前には、「この雰囲気を楽しもう」とメンバーを鼓舞した。
第2泳者の平泳ぎ、武良竜也は「入江さんのレース前の声かけがすごく力になりました」と振り返っている。
現役続行の価値
泳ぎで責任を果たせなかったと入江は感じたかもしれない。それでも4大会連続の出場となった日本競泳陣の最年長スイマーが役割を果たそうとする姿は、周囲にポジティブな影響を与えていた。現役続行を明かしたコメントには、こうも記されている。
「しかしながら沢山の後輩等やスタッフの方々からまだ続けていて欲しい、まだ代表にいて戦って欲しいという嬉しい言葉も沢山頂き、必要と思ってくれている事が凄く嬉しかったです」
今後については、「自分の為の練習だけではなく、次の世代にどういったものを残していけるのか、何を伝えていけるかを考えながら、必要とされるのであれば若い選手達と合同でトレーニングしたり日本の競泳界が発展する為の存在になりたいです」
周囲の言葉によって尽きぬ水泳への思いを再確認し、入江は競技を続ける。そのきっかけとなったのは、他ならぬ入江自身の水泳への献身だった。