「ウソは絶対に書かないけど、でも、嫌なこと、あったことを全部書いているわけじゃないからね。自慢っぽくなっちゃうから、自分では書きづらいことだってある。プロの書き手じゃないと書けないことって、やっぱりあると思う」

　だとしたら、彼はブログやツイートでしか本音を見せない現在のアスリートたちを、どう見ているのだろうか。

　興味深いのは、平成最後の1年を生きている中田英寿は、いわゆるSNSと言われるものに、ほとんど手を出していないということである。

ベトナム、ホーチミンにて　©Takuya Sugiyama

中田は天才ではないが……

ADVERTISEMENT

　長年日本サッカーを見守り続けてきたセルジオ越後さんによれば、ここ40年で日本が生んだ天才は、ただ一人、小野伸二だけだという。

　中田英寿は、天才ではない。

　小野伸二が唯一の天才かどうかは人によって意見の分かれるところだろうが（わたしにとっては礒貝洋光も天才なのだ）、中田が天才ではないということに関しては、ほとんどのサッカー関係者、そして他ならぬ中田自身が同意するのではないか。

　天才というには、中田のプレーはいささか硬質にすぎる。

　だが、天才ではない中田は、天才ですら届かなかった領域に足を踏み入れた。日本のサッカーだけでなく、スポーツ界全般にまで影響を及ぼす存在となった。

　なぜそんなことが可能だったのか――ずっとそのことを考えてきた。答えが見つかれば、第二、第三の中田英寿の出現を促すことができる。もう何年も、答えを探し続けてきた。そして、まだ探し続けている。

【次ページ】　“次の中田英寿”が必要な理由