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「4位で帰るのが一番ダサいよ」車いすラグビー池透暢が振り返る5日間の激闘…決戦前に開いた恩師からの手紙と亡き友人の写真
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byGetty Images
posted2021/09/10 11:02
2大会連続となる銅メダルに貢献した主将・池透暢。5日間の激闘を振り返ってもらった
迎えた最終日。3位決定戦で対したのは、再びオーストラリアだ。
オーストラリアで開催した18年世界選手権の決勝では1点差で日本が勝利。翌年の日本開催で行われたワールドチャレンジ準決勝では1点差で敗れた、まさに因縁のライバル。
池にとって、日本代表にとってもこれ以上ない絶好の相手とのメダルマッチだった。
さらにもう1つ、この試合が特別な理由があった。試合前、オアーHCがそっと近寄り、池に告げた。
「ライリー・バットは、おそらくこれが最後の試合になると思う」
スピードと破壊力、相手の弱点を見逃さない判断力、時に審判をも巻き込み優位に運ぼうとする小狡さ。車いすラグビー界のスーパースターであり、残した功績、影響力、紛れもなくナンバーワンでベストプレーヤーだ。
池はそのことを過度なプレッシャーを掛けまいとチームメイトには誰にも告げず、最後となるだろうバットとの対戦を楽しむべく、正面から全力で挑んだ。だが、最後の最後、第4ピリオドで橋本に伝えた。
「ライリー、今回で最後だよ」
同じ先天性の障がいで、バットに憧れを抱く橋本がこの試合でコートに立つ機会があるならば、最後に思い切ってぶつかってこい、そんな思いを伝えたかった。残念ながら橋本の出場は叶わなかったが、日本、そしてこれから世界の背負う橋本への、池なりのエールでもあった。
「金」より輝いて見えた「銅」
試合は60ー52で日本が勝利。見事、2大会連続となる銅メダルを獲得した。
観戦に訪れた小学生がスタンドから大きく手を振る姿に、「描いた景色が現実になった」と万感の思いが込み上げた。
「お互い悔しさを味わいながら何度も戦ってきた、ライリー・バットを含めたオーストラリアを相手に、最後の最後で今持てる日本の最高のラグビーを出すことができた。『最高によかった、すごかった』と褒められる金メダルよりも、『惜しかった、あと少しだったね』とこれからも応援してもらえる、僕にとっては金メダルよりも輝く銅メダルでした」
日本でこれほど多くの人たちが見て、胸躍らせたパラリンピックはおそらく初めてだったかもしれない。車いすのぶつかり合う音だけでなく、巧妙な駆け引きの中で個々の役割を果たし、繰り広げられる頭脳戦。車いすラグビーの魅力に触れた人たちの中から、1人でも「やってみたい」と感じる人が増えれば、それこそが競技力向上につながり、また新たな世界のスーパースターが生まれるチャンスにもなる。
「パリではもっと、レベルアップした競技になるんじゃないですかね。僕がいるかはわからないけれど、いてほしい、と思ってもらえるなら、それも嬉しいです」
3年後のパリでは、どんな風が舞うだろう。新風か、はたまた嵐の後のような生ぬるい風か。
もっと強く、もっと熱く。車いすラグビー日本代表の物語は、まだ終わっていない。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。