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「4位で帰るのが一番ダサいよ」車いすラグビー池透暢が振り返る5日間の激闘…決戦前に開いた恩師からの手紙と亡き友人の写真
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byGetty Images
posted2021/09/10 11:02
2大会連続となる銅メダルに貢献した主将・池透暢。5日間の激闘を振り返ってもらった
3.0、3.5のハイポインターを組み合わせた攻撃力のスピードを活かすべく、1.0、0.5のローポインターが日本選手の進路を塞ぎ、ハイポインターの走路をつくる。予選では見せなかったラインナップで臨んで来たことに加え、個々の高いパフォーマンスと組織力を見せつけた。
イギリスの綿密な準備を前に、予選では完璧に近い形で機能した日本の攻守の連係が分断され、49ー55。ここで金メダルの夢が潰えた。
「イギリスの怖さに気づいていたけれど、それをいつチームに伝えればよかったんだろう。もっとアクションを起こせばよかったのか。『3連勝してきたけど、崖っぷちだぞ』と言えばよかったのか。今でもわからないです。もっと彼らを恐れるべきだったけれど、もう取り戻せない。過ち、みたいな感情が込み上げてきました」
言葉少なに会場を引き上げる選手たちに、ケビン・オアーヘッドコーチ(HC)はあえて言った。
「悔しさは、この会場に置いて行け」
頭ではわかっている。明日は3位決定戦があるのだから、切り替えなければいけない。明日コートに立つためには、これまで懸けてきた時間や生活、思いの大きさを消化して、1人1人がこの結果を受け止めるべく、自問自答しなければ前に進めない。
まだ終わっていない――最後の試合で最高のパフォーマンスを発揮するために、池は動いた。選手村に戻り、大会前に全員で写真を撮ったスリーアギトスのモニュメントの前に選手を集めた。
「結果だけじゃない価値がある」
「この敗戦の後、うなだれるようにみんなでへこんで、4位で帰るのが一番カッコ悪い。一番ダサいよ。応援してくれる人たちは僕たちに金メダルを期待してくれたけれど、そこだけを見ているわけじゃない。明日どんな戦いをするか、自分たちの本当の姿を見せられるか。そこに金、銀、銅の結果だけじゃない価値がある。もっと落ち込んでもいいから、自分の切り替えられる方法で切り替えて、明日の朝はみんなで戦えるように頑張ろう」
選手村の1室は7人部屋で、リビングとそれぞれのベッドルームがある。同部屋の今井友明や芳賀理之と「イギリスの土俵で戦ってしまった」「修正できるのに押し切られてしまった」と話し合ううちに、冷静に反省点を振り返ることもできた。
自分自身の感情と素直に向き合ったのは、ベッドルームで1人になってから。金メダルが取れなかった悔しさが波のように溢れる中、込み上げる感情を抑えるべく家族と電話で話した。
さらに中学時代の恩師から「大会が始まってから読んで」と渡された手紙を開いた。その手紙には、事故で亡くなった友人の写真も添えられていた。最後の決戦を前に、今ここにたどり着くまでの日々を思い返した。そして、池は「明日へ向かおう」と強く誓った。