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順延に不戦勝、アクシデント続きで「ふわふわしていた」智弁和歌山が“ぶっつけ本番”で見せた底力…異例の調整のウラ側とは?
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKYODO
posted2021/08/25 17:04
夏の甲子園、8月24日の智弁和歌山-高松商にて勝利した智弁和歌山ナイン。
中谷仁監督は感謝の気持ちを表しつつ「できることを最大限に」と、初戦まで淡々と準備を進めてきたと、チームの動向を説明した。
「ドラフト1位候補」と呼ばれるプロ注目右腕、小園健太が牽引する市和歌山を攻略し、4大会連続の夏の甲子園を決めたのが7月27日。そこから1カ月、智弁和歌山にとって不確定な時間がとにかく長かった。
関西のチームであっても大会規定により宿舎が用意され、和歌山にあるグラウンドとを往復する日々。悪天候が続くなかほとんどが室内での練習だったが、雨が上がれば紅白戦など実戦形式のメニューに時間を割いた。
あまりにも初戦までのブランクが空いたため、試合前日には特例措置として近江―大阪桐蔭の試合後に30分間の甲子園練習が設けられるなど、とにかく異例ずくめだった。
「最初はふわふわした気持ちでしたけど…」
「正直……」
この言葉を多く用いた中谷の前日会見には、“叫び”が含まれていた。
「和歌山の決勝戦以降、正直、(実戦感覚を)保てていない。正直、チーム状況がいいのか悪いのかわかりませんけど、ピッチャーもバッターも内容はそんなに悪くないと思う。ぶっつけ本番のような形にはなりますが、選手を信じて頑張るしかないです」
夏の甲子園出場25回。うち2回優勝を誇る屈指の名門校。1997年に初の全国制覇を遂げたチームで主将だった中谷ですら、この異例の事態に当惑するほどだった。
迎えた高松商との初戦。中谷が前日会見の結びに口にした「選手を信じる」という決意。その答えが、選手たちからはっきりと示された。
3回1死一、三塁から、3番の角井翔一朗が先取点をもたらす安打をライトへ放つ。
「最初はふわふわした気持ちでしたけど、待ちに待った試合ができるんで『やってやろう!』って、すぐに思いました」
角井が気概を口にする。その鋭い打球に、実戦感覚から遠ざかった様子はない。
「室内でもメンバー外のピッチャーが投げてくれたボールを打ってきたんで、試合でもそこまで違いは感じませんでした」
なおも一、二塁の場面、4番・徳丸天晴のライトへの二塁打で2点目を挙げる。名門校の主砲もまた、練習の成果が出たと頷く。
「チームとしてシートバッティングとか実戦形式の練習を多くやってきたので、そこまで不安はありませんでした」