野球クロスロードBACK NUMBER
順延に不戦勝、アクシデント続きで「ふわふわしていた」智弁和歌山が“ぶっつけ本番”で見せた底力…異例の調整のウラ側とは?
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKYODO
posted2021/08/25 17:04
夏の甲子園、8月24日の智弁和歌山-高松商にて勝利した智弁和歌山ナイン。
“監督よりも冷静”だった選手たち
この回、さらに犠牲フライで加点し、一挙3点と主導権を握った。この打線の繋がりは、指揮官を唸らせるには十分だった。
「ゲームに入っていくなかで、僕のほうが『ピッチャーにしっかりコンタクトできるんだろうか?』と心配していたくらいで。角井をはじめ、安心して見ていられました」
中谷の感嘆をストレートに解釈すれば、選手たちは監督よりも冷静だったことになる。
実際にそうだったのかもしれない。
主将の宮坂厚希は、打線を客観視しながら高松商戦でのパフォーマンスをこう評した。
「ピッチャーの球は練習からずっと見てきたので、感覚は鈍っていなかったと思います。単打で繋ぐのがチームのウリですが、今日(高松商戦)に関して言えば、浮いた球に対してしっかりスイングできていたからヒットが出たんだと思っています」
11安打5得点。打線の安定感に刺激を受けるように、先発のエース・中西聖輝も最低限の働きを披露した。
9回2死から安打と四死球、味方のエラーで2点差に詰め寄られ完投を逃した反省を口にしたが、彼も実戦感覚から遠ざかっていたことを不利とは感じていなかった。
「ブルペンでバッターに立ってもらって感想を聞いたり、監督さんにピッチングを見てもらったりしていたんで気にならなかったです」
智弁和歌山の初戦は、まさに日ごろの鍛錬が生んだ勝利だった。
イチローさんからの言葉「ずっと見てるから。ちゃんとやってよ」
この試合運びを、監督が手放しで称える。
「頼もしかったです。実戦から遠ざかっているようには見えず、はつらつとプレーしていた」
5-3で高松商を退けた直後の取材。報道陣からこんな質問が飛んだ。
――大会前にイチローさんから激励の言葉はあったか?
昨年12月。イチローが臨時コーチとして3日間、智弁和歌山を指導したことを受けての問いに、中谷は笑顔を覗かせながらも「いえいえ」と大仰に振舞わず、謙虚に答えた。
「いつも見てくださっているので、この大会も『ちゃんと見てるよ』というメッセージをもらっていますので。特に大会前に何かあったというわけではないです」
智弁和歌山での指導の最終日。イチローは選手たちにこんなメッセージを贈ったという。
「ずっと見てるから。ちゃんとやってよ」
2021年8月24日。
智弁和歌山は、ちゃんとやった。