移動にかかるお金も時間も全てスケートボードに捧げた。テレビは一切見ないし、なんの話題にもついていけない。移動時間は体力温存のために寝る。帰って来てからも翌日の練習のために寝ることの繰り返し。その努力を考えれば「540」のマスターは必然だったのかもしれない。

　スケートボードが上手くなることしか興味がなかった少女には、いつの間にかチャンピオンになるための道が勝手に出来上がっていたのだ。

ストリート種目でもゴールドメダル。彼女の努力の一端が垣間見える瞬間だ　©Yoshio Yoshida

人柄を象徴する“気絶しちゃった事件”

　最後に上田さんが四十住さくらの人柄を象徴するようなエピソードを教えてくれた。

「以前僕が激しく転倒してドクターヘリで緊急搬送され、生死の境を彷徨ったことがありました。その時も彼女は最初から最後までずっと付き添ってくれたんです。それで僕が無事であることがわかった途端に気を失ってしまって……。隣の治療室で点滴を受けていましたよ。

　ただそれだけの思いやりを持ち合わせている子です。そんな彼女には金メダルが一番似合っていると信じています」

©Getty Images

　下からの突き上げがあるのもわかっているし、ずっとチャンピオンでいられないこともわかっている。ただ本人は今回のオリンピックで金メダルを獲ることで、また自分が目指す新しい方向が見えてくると話していた。

　そして五輪が終わり、金メダルという最高の結果を手にした彼女の目にはどんな新しい世界が見えているのだろうか。

　四十住さくらという一人のスケートボーダーが描き出す第二章も、目を離すことなく見届けていきたいと思う。