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「聖光だけが出る福島のレベルは低い」が終わった日…球速125km&スライダーのみ「166cm左腕」が絶対王者を破るまで《夏の甲子園》 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byGenki Taguchi

posted2021/08/01 17:02

「聖光だけが出る福島のレベルは低い」が終わった日…球速125km&スライダーのみ「166cm左腕」が絶対王者を破るまで《夏の甲子園》<Number Web> photograph by Genki Taguchi

福島県大会で「87連勝」していた聖光学院を破った光南高校のピッチャー・星勇志(166cm・67kg)

 9回を5安打4奪三振、1失点。聖光学院打線を封じ込められた背景として、光南の星勇志は「春の経験」を挙げている。

 春季大会の準々決勝。星は聖光学院に4失点を喫し敗戦投手となった。しかし、春の優勝校であり、夏の絶対王者でもある相手の手の内を掌握できたことが収穫だったと語る。

「当たるのは今回が初めてでなかっただけ、落ち着いて投げられました。春はストレートが通用しなかったので、バッターの反応を見ながら、スライダーとか変化球中心のピッチングでうまく打ち取ることができました」

 高揚感をにじませながら自らの快投を堂々と話していた星に、尋ねた。

――去年の秋、まさか夏にこんな大仕事をやってのけるなんて、想像できた?

 星が間髪入れず、「いやぁ」と否定する。

「秋は(県大会2回戦で)須賀川に負けて。僕も打たれたし、打線も打てなかったんで、『実力がない』とみんなが自覚して。そこから『チームワークで勝てるチームになろう』と思えたことが大きかったですし、僕も『周りが助けてくれるなら、自分も助けてあげられる存在にならないと』って」

「新チームはピッチャーがいないんです」

 星の回想を聞き、渋谷武史監督の言葉を真っ先に思い出した。

「新チームはピッチャーがいないんです」

 光南は毎年のように好投手を輩出し、特に左投手の育成には定評がある。渋谷が13年に監督となってから夏は2度の準優勝(独自大会含む)を経験しており、16年の石井諒と20年の國井飛河の両エースが左腕だった。

「そんなこと言って、最終的にはいいピッチャーを作り上げるじゃないですか」

 既成事実を出しても、渋谷は「いやいやいやいや!」と、素早くかぶりを振りながら謙遜していたものである。

「本当に、本当にいないんです!」

 監督が強調するのも、この時の星の能力を知れば納得できるかもしれない。

 最大の武器であるスライダーこそ当時から切れ味はあったが、まともに操れる変化球はこれくらいで、球速に至っては125キロに到達するかしないかだった。

 いわば「どこにでもいそうな」凡庸な投手。それが、秋までの星だった。

石井一久の投球フォームを理想に…「爪はやすりで」

「チームを助けられる投手に」と、秋の敗戦から光南のエースが着手したのが、徹底した下半身トレーニングだ。

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