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「化け物のような選手に育てたかった」“天才・伊藤美誠”を鍛えた母の“鬼レッスン”「幼稚園生で1日7時間練習」「自費で中国遠征」 

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城島充

城島充Mitsuru Jojima

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photograph byAsami Enomoto/JMPA

posted2021/08/05 06:02

「化け物のような選手に育てたかった」“天才・伊藤美誠”を鍛えた母の“鬼レッスン”「幼稚園生で1日7時間練習」「自費で中国遠征」<Number Web> photograph by Asami Enomoto/JMPA

混合ダブルスで金メダル、シングルスで銅メダルを獲得した伊藤。団体女子では日本のエースとして打倒中国を目指す

五輪特有の重圧すら「楽しみ」

 日本卓球協会の理事会でリオ五輪の代表候補が決まった2015年9月19日、東京のナショナルトレーニングセンターにいた伊藤は、理事会が開かれていることをすっかり忘れていた。

「『会見があるから準備して』ってスタッフの人に言われて、あっ、今日だったんだって。3人目もランキングで決めるって言われていたけど、ほんとにそうなるのか不安があったのでうれしかった」

 福原、石川と並んで報道陣から抱負を聞かれたとき、初めて五輪代表に選ばれた実感が湧いてきたという。

「最初にうまく言葉が出なくて、ちょっとかんじゃったんです。あれっ、これもオリンピックだからかなって(笑)。今は早くリオの本番がきてほしくて、わくわくしています。オリンピックでしか感じられない重圧というのがどんなものなのか、それを体験するのも楽しみなんです」

福原「不安がないほうが絶対に強くなれる」

 15歳でのオリンピック出場は、福原に続く快挙である。だが、同じ年齢で比較すれば、2人の天才卓球少女の心模様は全く違うのではないか。

 以前、福原にその当時の思いを聞いたことがある。努力をして勝つたびに重圧と不安が増していったという国民的ヒロインは、少し哲学的なことを口にした。

「その不安が、私を強くしてくれたことは間違いありません。でも、不安と向き合うことなく成長したほうが、絶対に強くなれると思うんです」

 このとき、福原は「不安がないほうが成長する」という仮説を誰にもあてはめることができなかった。だが今、代表のチームメイトになった15歳は、まさにその対象にぴたりとあてはまる。

「どんな大きな舞台で、どんなに強い選手が相手でも、緊張したり、重圧や不安を感じたことはありません。卓球が大好きだから、どんな局面でも楽しい」と言い切る新たな“福原2世”は、リオの舞台でどんなプレーを披露し、東京へ向けた糧をどんな形で手にいれるのだろう。

「これまでの美宇ちゃんとは別人だった」

 オリンピックイヤーを迎えた1月の全日本選手権女子シングルス準決勝で、伊藤は平野美宇にストレートで敗れた。

「卓球はもちろん、表情や気持ちもこれまでの美宇ちゃんとは別人のようでした」

 会見でそう語った伊藤の瞳は、涙でうるんでいた。五輪選考で悔しい思いをしたライバルの強い気持ちと成長は、15歳の五輪候補の胸に新たなモチベーションを刻んでくれたはずである。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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