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「こっそり前の会社をやめました」トレイルランの日本トップ女子選手(27歳)が長野県警《山岳遭難救助隊》に転身するまで

posted2021/08/07 17:01

 
「こっそり前の会社をやめました」トレイルランの日本トップ女子選手(27歳)が長野県警《山岳遭難救助隊》に転身するまで<Number Web> photograph by Sho Fujimaki

日本のトップトレイルランナー・秋山穂乃果(27歳)は3年前に警察官に転身した

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千葉弓子

千葉弓子Yumiko Chiba

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Sho Fujimaki

 夏山シーズン到来。新型コロナウイルスの影響が長引くいま、密を避けてリフレッシュできるアウトドアの関心はキャンプを中心に急速に高まっており、その流れを受けて、これから新たに登山を始める人も少なくないだろう。

 登山者が増えれば、否が応でも遭難や事故は増えてしまう。遭難防止の啓発活動や、事故発生時の救助に尽力するのが全国の山岳救助隊だ。日本の屋根と呼ばれる北アルプス、中央アルプス、南アルプスなど3000m級の山々を有する長野では長野県警内に山岳遭難救助隊が配置されている。そこにこの春、トレイルランニングのトップアスリート、秋山穂乃果が入隊した。

 2017年からトレイルランニング競技に取り組み始めた秋山は、現在27歳。当初から才能を発揮して表彰台を飾っていたが、この1年でさらに飛躍した感がある。11月にタイ・チェンマイで開催される『トレイルランニング世界選手権2021』の日本代表選手にも選ばれ、世界の舞台での活躍にも期待が高まっている。

 そんな秋山の警察官としてのチャレンジ、それが山岳遭難救助隊の仕事だ。

報道カメラマン→警察官「こっそりテレビ局をやめた」

 実は秋山はもともと警察官だったわけではない。神戸大学卒業後は大阪毎日放送で報道局のカメラマンとして働いていた。徹夜続きの職場だったという。

「眠気と闘うという意味では、報道カメラマンも交番勤務の夜勤も同じかもしれません。ただ警察官は制服を着ていて、気軽にコンビニにも行けませんから、常に人に見られているという緊張感があります。そこがいちばんの違いかなと思います」

 ふんわりとした口調で話す秋山は、1分1秒を競い合うトップアスリートらしからぬ柔らかな空気を漂わせている。しかしその根底には、まだ自分自身も把握しきれていない強さが眠っているようにも見える。

 大学時代から密かに警察官や自衛官に憧れていたが、「危ないからやめてくれ」という両親の願いもあって、就職活動ではこれらの職業を目指さなかった。そして、「大好きなお笑い番組のADになりたい」とテレビ局への就職を決める。ところが配属されたのは報道局、しかも体力が必要なカメラマンだ。毎日のように事故や事件現場に足を運ぶうちに、あらたな気持ちが芽生えていく。

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秋山穂乃果

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