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ジョコビッチは“歴代最高の選手”になるか? 思い出す“絶対王者”フェデラーの苦悩「自分で怪物を作ってしまった」
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byHiromasa Mano
posted2021/07/12 17:02
2021年のウィンブルドン男子シングルを制覇したジョコビッチ。男子で史上初となる「ゴールデンスラム」にまた一歩近づいた
「第1セットが終わったときにはホッとしたんだ。もちろん、第1セットを失ったのはよくないことだが、一方で、このセットを終わらせて、ボールを振り抜き、自分のやりたいようにプレーしていこうと思ったんだ。それは第2セット冒頭の4ゲームですでに達成できていて、勢いが変わったのが分かった。気分よくプレーできていた」
先の全仏の決勝では、2セットダウンから涼しい顔で逆転勝ちしたジョコビッチなら、これくらいの挽回は朝飯前か。重圧であれほど硬くなっていたにもかかわらず、わずか4ゲームで不安要素をきれいさっぱり拭い去った。
25歳が語った王者の強さ「見たこともないくらい」
ベレッティーニがその強さについて語っている。
「第一に、僕の武器であるサーブやフォアハンドを無力化してしまうんだ。彼のコートカバーリングは信じられないくらいだ。見たこともないくらいだ。こんな気持ちにさせられる選手は彼だけだ」
「無力化」というのが言い得て妙だ。パンチが効かない、効いているはずなのに倒れない、倒れても絶対に10カウントを聞かない。そこがジョコビッチの強さだ。そして、それは強さの一面でしかないのが、彼の恐ろしさだ。
男子未踏「ゴールデンスラム制覇」を公言してきた
この大会、ジョコビッチは大記録達成を強く意識していた。開幕前、コーチのマリアン・バイダは「彼の目標、我々の目標は五輪に勝ち、さらに年間グランドスラムを達成することだ」と明言した。ジョコビッチが目指したのは四大大会の「20勝」にとどまらない。目指すはゴールデンスラム、つまり、四大大会全制覇+五輪の金メダルだ。1988年にシュテフィ・グラフが達成したが、男子では未踏の高峰である。
コーチの言葉を受け、ジョコビッチも「多くの人が不可能と考えていたことを僕は成し遂げてきた。すべては可能だ」と話した。大記録への一歩として臨んだのがこのウィンブルドン。大きな夢を口にすれば周囲の期待は高まり、雑音のボリュームが上がる。もちろんプレッシャーも増す。だが、ジョコビッチはそれらを全部引き受けることを選んだのだ。
優勝カップを手にして少し気持も緩んだのか、ジョコビッチはみずからを「最高の選手」と呼ぶのをためらわなかった。