濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「手も足も出なくて...」新団体GLEATで“女優レスラー”福田茉耶が味わった“恐怖の4分50秒”…それでも「光栄です」と語ったワケ
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/07/07 11:01
橋本千紘の逆エビ固めに、福田茉耶はロープエスケープ
3月から新たに始めたプロレスラー修行。田村のジムで教わったのは、とにかく強くなるための練習だった。まずは体作りから。打撃もキックボクシングのスタイルで、伝統派空手とはだいぶ違った。寝技に関しては「やられて覚えろ」が田村の指導法。練習を重ねる中で、田村からは「もし総合格闘技のほうがいいと思ったら(UWFではなく)そっちでもいいよ」と言われたそうだ。俳優、タレントとの“兼業”にも理解を示してくれた。
「田村さんは自分の気持ちを優先させてくれます。雑談の中で聞いたのは、以前は田村さんの思いが強すぎて人と離れることにもなったと。“人間関係って難しいよね”とおっしゃってました。田村さんもいろいろあって、その上で今またUWFに携わっている。その名前を背負うと言ったらおこがましいですけど、田村さんにもUWFの歴史にも恥ずかしくない選手にならなきゃと思ってます」
デビュー戦の2日前、福田はインタビューに答えて言った。田村潔司の愛弟子にして“女子UWF戦士”。大事な存在だから“ほどほど”の相手で無難なデビューというわけにはいかなかったのだろう。ましてUWFスタイルで試合ができる選手は限られる。そこで橋本だったのだ。センダイガールズのチャンピオンというだけではない。彼女は日本大学レスリング部出身。日本のトップクラスで活躍する選手だった。
いつの間にか泣き顔になっていた
橋本にとって初めてのUWFルール、UWFスタイルは、ベースであるレスリングの力が通常のプロレス以上に活かせるものだった。最初に放った両足タックルでほぼ勝負あり。体重の乗った鋭い飛び込みを切ることができる選手は、女子プロレス界にはいないだろう。
橋本はテイクダウンから“プロレス技”である逆エビ固めで福田をロープエスケープさせる。さらにアンクルホールドでロストポイント2。福田は雄叫びをあげて気合いを入れ直すが、橋本の圧力に後退してしまう。
得意の打撃も思ったように出せなかった。途中から、ガードを下げて前手を伸ばす伝統派空手の構えに変える。打撃スタイルをチェンジすることで橋本を戸惑わせるのは、試合前から立てていた戦略だった。
だがそれでも橋本を止めることができない。いつのまにか、福田は泣き顔になっていた。ハイキックで一瞬、橋本をグラつかせたが追撃には至らず、2度目のアンクルホールドでギブアップ。リングを降り、インタビュースペースの椅子に座っても涙が止まらなかった。