バスケットボールPRESSBACK NUMBER
「チームメイトにも相談できなかった……」川崎から広島へ移籍、31歳・辻直人が語った“本当の理由”とは?
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byKAWASAKI BRAVE THUNDERS
posted2021/07/06 17:01
川崎ブレイブサンダースから広島ドラゴンフライズに移籍した辻直人
シーズンの前半戦までは、自分がつきつめようとしている道を進んでいる手応えがあった。チームが負けたときにはこれまで以上に責任を感じた。一方で、最終的に優勝を果たすことになる千葉ジェッツとの試合など、圧倒的な活躍を見せたときもあった。自分がチームを引っ張るという意識はブレていない、と感じられていた。ただ、シーズン後半戦になると……。
「チームのスタイルが変わり、自分の役割も変わっていったんですよね」
「どうしてパスを出してくれないんだ?」
川崎の最大の強みとして、高さのある海外出身の選手3人(帰化選手であるニック・ファジーカスを含む)を同時に起用する「ビッグラインナップ」が定着したからだ。このメンバーを送り出すとき、佐藤賢次ヘッドコーチはしばしば、こう話していた。「ビッグラインナップをもっとも活かせるのは、(司令塔の篠山)竜青と辻だと思っているので」。味方を活かすという仕事で、辻は大きな期待を受けていた。もちろん、試合が始まればそこに全力を尽くしていた。
「相手の弱点や自分たちのアドバンテージを見つけて、プレーできたとは思います。そこも持ち味の一つではあるので、それはそれで良かったとは思うんですけど」
3月には天皇杯も制覇した。Bリーグが開幕して5年目で初めてつかんだ念願のタイトルだ。シーズン前の自分の目標と違う方向に進んでも、チームを思う気持ちは変わらなかったと断言できる。例えば、4月11日に秋田ノーザンハピネッツ戦で敗れた後のこと。ロッカールームでは意見が激しく交わされた。
憎まれ役になってしまうかも
口火を切ったのはインサイドの選手たちだ。「ビッグラインナップ」でチームに多くの勝利をもたらした自信と責任感を持つビッグマンたちから、辻を含めたアウトサイドの選手たちへ不満の声が挙がった。
「どうして、オレたちを活かすパスをすんなり出してくれないんだ?」
その理由はシンプルだった。パスを出さなかったのではない。“出せなかった”のだ。対戦した秋田は、独特の戦術を用いていた。具体的には、決して大柄ではない川崎のアウトサイドの選手に、大柄な秋田のインサイドの選手たちがプレッシャーをかけてきた。自分よりもはるかに大きい選手にプレッシャーをかけられた川崎のアウトサイドの選手たちは、視野やパスコースをさえぎられ、打開策を見いだせなかった。