月刊スポーツ新聞時評BACK NUMBER
もはや“同時代に生きているだけで自慢”の大谷翔平…次の“推し”は「今のあやうさ」を見ておきたいあの選手
text by
プチ鹿島Petit Kashima
photograph byGetty Images
posted2021/07/04 17:01
6月29日に行われたニューヨークでのヤンキース戦、大谷は2打席連続HRでリーグ単独トップに浮上。ヤンキースファンも喝采を送った
黒田には「男気」というフレーズがよく似合った。従来からの野球報道の文脈にもピタリと当てはまるウエットさも持っていた。浪花節も似合うヒーロー。しかし大谷は大谷だったのである。浪花節はなくて技術を淡々と見せつけていた。見る側も二刀流という目の前の現実を追うだけで十分で、「物語」がとくにいらなかったのである。
しかし今年の大谷はスポーツ紙にも合う。
想像以上の成績も、あの肉体の凄さも、「すごいもの」「劇的なもの」が大好きなスポーツ新聞によくハマるのである。今の大谷なら日本にいた当時にピンとこなかった「怪物」とか「天才」「伝説」といった大仰なフレーズも合う気がする。
「伝説」といえば今季の大谷翔平はまさに伝説と相性がいい。ベーブ・ルースである。「野球の神様」と言われた人物でピッチャーとバッターの両方をやってしまう元祖二刀流である。読売新聞のスポーツ面は『二刀流大谷 神の域』(5月18日)と書いた。たとえば、本塁打数トップの選手が投手として先発登板する(4月27日)のはルース以来100年ぶりの記録。開幕30試合の時点で10本塁打を打ち、投げては三振を30も奪った記録(5月7日)はなんとベーブ・ルースを超えた。
あ、言ってるそばからこんな見出しが。
「ルースに捧げたNY弾 大谷」(サンスポ6月30日1面)
「ルース宿った 大谷神速26号」(報知6月30日)
ベーブ・ルースがかつて活躍したニューヨークで輝きを放った、と各紙伝えている。
大谷と同時代に生きる喜び
いかがでしょうか。以前は物語性がいらなかった大谷翔平と書きましたが、よりによってベーブ・ルースという「偉人伝」を引っ張り出してしまったのである。一気にどでかい物語性、ロマンをも獲得してしまった。大谷凄いなぁ。そりゃスポーツ紙の活字野球にもハマります。
約100年前の偉人を身近にさせてくれる大谷。もしかしたら100年後は大谷が話題になっているかもしれない。同時代に生きているだけで自慢に思えてきた。