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藤井聡太二冠に6勝1敗…「豊島将之竜王、さらに強くなった」理由を佐藤紳哉七段、中村太地七段と考えた【王位戦も展望】
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph byJIJI PRESS
posted2021/06/29 11:07
藤井聡太二冠と豊島将之竜王・叡王。王位戦と叡王戦でのタイトルマッチは大注目だ
紳哉 序盤戦を調べることで知識が増えたり、上手く指して勝率が良くなる部分はあるかもしれません。ただ、それと"将棋が強く"なるのはまた別の話だと思うんです。コンピューターは確かにものすごい強さなんですが、実戦に生かすために、血のにじむ努力で何かを掴むというのは――砂漠でダイヤを探すような感覚です。それができたのって、実は豊島さんだけなんじゃないのかなって。
AIを活用した結果、豊島竜王は中盤~終盤が微妙に強くなったと思うんですよ。プロの間で"少し強くなる"ということはとても大変なことです。もともとタイトルを争うレベルだった豊島竜王がほんの少しでも強くなったことによって、タイトルを複数回獲るようになったというような……そんな感じがします。
電王戦を戦った佐藤紳哉七段だからこそ感じること
――AIのお話が出たところで、紳哉先生は2014年の第3回電王戦で、コンピューター将棋に挑んだという経歴があります(vsやねうら王)。当時の経験はどのように捉えていますか?
紳哉 僕にとってはすごくためになった一局でした。実は個人的に引き受けた段階から「コンピューターに対して人間が渡り合って勝てる最後の年になるんじゃないかな」と思ってたんですよ。そのタイミングで思い切りぶつかって指せたので。本当にいい時にいい経験ができたなという風に思いました。
中村 結果的には敗戦にはなりましたけど、経験値として得たものは非常に大きかったのでしょうか。
紳哉 間違いない。当時あまり「AI」という表現はしなかったんですが、あれだけ長い時間AIと向き合うことができたわけですから。ただその経験があるからこそ、コンピュータを使って強くなるのは、本当に大変なことだという気持ちは今も強くて、むしろ弱くなる可能性も高いのでは……とも感じています。