紳哉　そこまで差がつかなくても……というのが、ふたりの対局を見ていて感じるところです。将棋は人と人が戦うもの。得意戦型や相性によって、星が偏るというのはよくあることです。

　とはいえもちろん、豊島竜王はトップクラスの実力者です。藤井さんはどんどん強くなってはいますが、まだ全てが完璧というわけではない。そういう意味では、ここ数年トップの位置にいる豊島竜王相手に負けが込むのは、不自然なことではないかと。

藤井二冠が豊島竜王に敬意を持っているからこそ？

中村　対局を振り返っていくと……昨期の王将戦リーグでは、形勢が大きく二転三転した将棋となりました。藤井さんが1回優勢になった終盤で負けることあるんだ、と衝撃を受けたという記憶はあります。それこそ――対局中の豊島竜王の醸し出す雰囲気か、目に見えない何かが存在しているのでしょう。

　それは藤井二冠の立場に置き換えると、豊島竜王の強さに対して敬意を持って戦っているからこそ形勢が二転三転する、という波長に入っているのかもしれません。これは何度か話したことがあるのですが――例えばネット対局で、相手が豊島竜王、渡辺（明）名人、羽生（善治）先生だったとして、そうだと知らずに戦ったら、結果的に"普通に勝っていた"という状況が起こりえるのでは、と考えることはよくあります。盤を挟んで向かい合って、同じ時間を共有していたりすると……。私自身も対局に臨む際、強い感情を持ちすぎないように心がけています。

紳哉　それは確かに。

2人が戦う王位戦、どうなっていくと思います？

中村　紳哉先生と色々と話してきましたが、王位戦、どうなっていくでしょうね。

紳哉　これから豊島竜王と藤井二冠は数多く戦うことになると思うんですよね。なので、あまり根を詰めて考えるよりも、ちょっと傍観しつつ単純に楽しみたいなと。

中村　（笑）。豊島竜王は藤井二冠のことを研究する際に「自分もあと何年戦えるかわからない」、「藤井二冠の一番強い時期に頑張っていたい」とおっしゃっているのを目にしたことがあります。AIを活用して強くなった次の目標として、今は藤井二冠を意識して将棋に取り組んでいるのではないでしょうか。

3つのタイトルマッチを戦う藤井二冠はどのような戦いと成長を見せてくれるか©日本将棋連盟

　王位戦は七番勝負、しかも2日制でじっくり考えられる対局が実現します。ガチンコの勝負ができるということで、豊島竜王にとっても非常にモチベーションは高いはずです。藤井二冠としても、対戦成績では負け越している豊島竜王を、勢いのある挑戦者として迎えなければいけない。試練の番勝負になるのは必至ですし、世間での注目度も高まってほしいなと願っています。

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