濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
朱里が大号泣、林下詩美は放心状態に… スターダム“赤いベルト”をかけたベストバウトと選手たちが味わった挫折
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2021/06/18 11:03
朱里(右)と林下詩美はスターダムの“赤いベルト”ワールド王座戦で大激闘を繰り広げた
「たむさんがいなければ、プロレスに出会っていなかった」
アイドルグループでは、ステージでの立ち位置や歌割りで見せ場があらかじめ制限されてしまう部分もあるという。事務所の大きさなど、本人の努力や資質と関係ない要素も。
だがプロレスなら、試合の中でいくらでも“見せ場”を作ることが可能だ。自分の技や動き、表情で観客を沸かせた実感も掴みやすい。たとえうまくいかなくても「強くなれば、上手くなれば」と信じられる。頑張れば必ず誰かが見ている。そんな実感もある。
上谷もまた、プロレスに自分の可能性を見出した。“シンデレラ”の称号を得た彼女は優勝者に贈られるドレスに着替え、再びリングへ。そしてスターダム☆アイドルズのGMだった中野たむのベルトに挑戦表明したのだった。
「たむさんがいなければ、私はプロレスに出会っていなかった。その気持ちをベルト戦にぶつけて“師匠超え”を狙います」
“モノが違う女”朱里の実力は本物
メインイベントは大激闘になった。林下詩美vs.朱里の“赤いベルト”ワールド王座戦。主導権を握ったのは朱里だ。攻撃の軸は鋭い蹴りと関節技。立ち技格闘技イベントKrushとMMAのパンクラスでベルトを巻き、世界最大の格闘技イベントUFCにも参戦した実力は本物だ。
ファーストコンタクトで組み合う「ロックアップ」の場面からして、明確に次の動きへの布石だと伝わってくる。形だけではないから見ているほうも気が抜けない。ここぞという場面では両足タックルも。相手を掴んで走る仕掛け方はMMA流だろう。
“モノが違う女”のキャッチフレーズにふさわしい闘いぶり。なおかつ試合運びや表情の豊かさは、やはりプロレスラーとしてのものだ。
タッグパートナーであるジュリアは、彼女を「スターダムの守護神」と呼ぶ。格闘技の実力、実績だけではない。数々の団体で活躍してきたプロレスラーとしての経験値も、スターダムの若い選手にはないものだ。デビュー13年目の朱里が昨年秋に入団したことで、スターダム自体の株が上がったという面もある。どこでも好きなようにプロレスができるはずの“大物”が、自分の人生をかける場所としてスターダムに腰を据えたのだ。
当時チャンピオンだった岩谷麻優にタイトルマッチで敗れ、“赤いベルト”を巻くために朱里は入団を決意した。その岩谷からベルトを奪ったのが林下だ。2018年のデビュー直後から、常に何かしらのベルトに絡み続けた大器。朱里からの挑戦表明には「避けて通れない相手」と腹を括った。
「蹴りや関節技を使う選手は苦手なんです。だからこそ勝たないと。しかも私がファンの頃から活躍している人。そういう相手と、節目になる5度目の防衛戦で闘えるのは重要なことです」