マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
柳田、則本、秋山も地方大学で急成長した…大学3年の“知名度ゼロ”ドラフト候補はこの3人【大学選手権マニアック解説】
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2021/06/12 06:00
大学3年の“知名度ゼロ”ドラフト候補(2)上武大の加藤泰靖(3年・184cm86kg・右投右打・志学館高)
考えてみれば、沖縄の学生球界についてはほとんど知らされていない。同じことは高校球界にも言えて、時々、なんだこりゃ!という隠れた逸材が現れる。
まず、マウンドの立ち姿を見て、アレッと思う。
「185」ぐらいあるかな……と思ったら、プログラムでは178cmとなっている。腕が長いんだ。ダランと伸ばすと指先がヒザの近くにまで達している。
その長い腕がしなやかに真上から豪快に振り下ろされて、広島カープの若きエース・森下暢仁みたいな投手だ。
真上から投げ下ろして、低めにきまる球筋は、上武大・加藤泰靖が重なるが、ホームベースの上でむしろ加速しているように見える快速球は、回転がまるでほどけないままに捕手のミットに突き刺さる。
アベレージ145キロ前後の速球に、タテのスライダーの鋭い落下がすごい。落差と落下スピードに加えて、外角低めのゾーンギリギリにきめられるコントロールがすごい。こういうスライダーは、捕手目線から見ると、「地面に突き刺さるようなスライダー」で、ストレートよりずっと速く見えるものだ。打者のバットで、そうそう捉えられるものじゃない。
真上から猛烈な腕の振りで投げ下ろせば、たまに高く抜けるボールがあってもおかしくないのに、そういう「幼いボール」がほとんどない。
それどころか、構えたミットにずいぶんビシビシきまるなぁ……と思ったので、4回から8回までの5イニング、どれぐらい捕手が構えたミットに投げられているか(私は「コントロール率」と呼ぶ)を数えてみたら「67%」と出たそのコントロール率は、プロ野球一軍クラスの精度だったから驚いた。
必殺兵器のタテのスライダーに、カットボール、カーブにフォークを同じような精度で使い分けて、全国の舞台で平然と投げながら、「0」を重ねていく。
ピチピチしたフレッシュさと、ベテラン投手のような隙のなさ。間違いなく人気者になりそうな端整なマスク。プロの食事とトレーニングでパワーアップして、今の高精度をキープしながら、アベレージが150キロ前後に達したら……。
夢は広がるばかり。もし「飛び級」で、今年のドラフトに載っけたって、そりゃあ1位とは言わないまでも、上位指名間違いなしの「東浜巨(ソフトバンク)二世」であろう。
1回戦で消えるにはあまりにも惜しい、思いがけない逸材だった。