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がけっぷち福島千里はなぜ復活できたのか 「首の皮一枚つながった」30代ランナーに残された五輪出場への“2つの道”
posted2021/06/09 11:01
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph by
Kiichi Matsumoto
男子100m・山縣亮太の日本新記録に沸いた布勢スプリント(鳥取)で、もう1つ、密かに注目を浴びていたのが女子100mの福島千里(セイコー)のレースだった。
福島といえば、女子100m、200mの日本記録保持者で、長年、日本女子スプリント界を引っ張ってきた存在だ。オリンピックには、北京、ロンドン、リオデジャネイロと3大会連続で日本代表として出場。2012年のロンドン大会には、1964年東京大会以来となる女子4×100mリレーでの五輪出場の大きな力となった。
しかし、近年はアキレス腱炎などのケガに苦しみ、なかなか結果を残せていない。自身がもつ100mの日本記録は11秒21だが、2019年のアジア選手権以降は12秒さえも切れないレースが続いていた。日本選手権では100mで7連覇を含む通算8度の優勝を誇るが、2020年はその舞台に立つ権利をも手にすることができなかった。つまり、もし東京オリンピックが昨年に開催されていたら、その時点で福島の4大会連続出場は完全に断たれていたということだ。
五輪選考をかけたがけっぷちのラストチャンス
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現在は日本陸連強化委員会ディレクターでもある山崎一彦氏の指導を受けているが、昨年11月からは男子マラソン代表の大迫傑のトレーナーも務める五味宏生氏にリハビリやフィジカルトレーニングの指導を受け、復活に備えてきた。そして、今シーズン初戦の3月27日の順天堂大学競技会では11秒86(+1.2m)と復調の兆しを見せていた。しかし、それでも、東京オリンピックへの関門となる日本選手権の申込資格記録11秒84にはわずかに届かなかった。
その後も、4月29日の織田記念を左太腿の肉離れで欠場するなどケガもあり、記録を伸ばせず、日本選手権の申込資格記録の有効期間の2021年5月31日までにクリアできなかった。日本グランプリシリーズでの記録も認められるため、その1戦である6月6日の布勢スプリントが、事実上、日本選手権に出場するためのラストチャンスだった。福島は、まさにがけっぷちに立たされていた。