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がけっぷち福島千里はなぜ復活できたのか 「首の皮一枚つながった」30代ランナーに残された五輪出場への“2つの道”
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph byKiichi Matsumoto
posted2021/06/09 11:01
長く低調が続いていた福島千里は布勢スプリントで好記録を叩き出し、日本選手権へ道をつないだ
追い風をも味方につけた福島千里の走りは
この日の福島は、予選から逆境を撥ね除ける走りを見せた。予選では11秒82(+2.0m)と申込資格記録をさっそく突破。さらに、B決勝では11秒78(+1.6m)に記録を伸ばした。今年の日本選手権からはターゲットナンバー制が導入され、出場枠の目安が設けられており、女子100mは“40”となっている。11秒82のままでは日本選手権の出場が認められない恐れもあったが、記録を11秒78に伸ばしたことで、(あくまでも筆者の手元の集計だが)おそらくは出場枠内にも入り込んできただろう。
実は、布勢スプリントが行われた鳥取市にあるヤマタスポーツパーク陸上競技場(旧名称・鳥取県立布勢総合運動公園陸上競技場)は、追い風が吹く競技場として知られている。
風速2.0mよりも強い追い風が吹くと公認タイムにはならないため、2004年のアテネ五輪前に日本選手権が開催された際には、追い風を和らげるために開閉式のフェンスが設置されていた。
福島自身、この競技場で、2009年には1日に2度も日本記録を更新。2011年には追い風参考記録を含む日本最速タイムの11秒16(+3.4m)をマークしており、相性は良い。
とはいえ、この日も予選2組目が+2.3mの追い風だったように、風が公認の範囲内で収まるかは紙一重の状況だった。福島が走った際は、予選+2.0m、B決勝+1.6mとまさに絶好のコンディション。追い風をも味方に付けたといえる。
依然として五輪出場は厳しい状況
しかし、「首の皮一枚つながった感じ」と福島自身が口にしたように、まだまだ五輪選考の入り口に立っただけに過ぎない。100mで東京オリンピックに出場するには、日本選手権で3位以内に入るのは当然として、自身の日本記録を上回る11秒15の参加標準記録を突破しなければならない。依然として、現実的にはオリンピック出場が厳しい状況であることに変わりはない。