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松永幹夫が涙した「イソノルーブルのオークス」から30年 桜花賞で敗れた“裸足のシンデレラ”の名勝負を振り返る
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph bySankei Shimbun
posted2021/05/22 11:01
30年前のオークスでは、桜花賞で落鉄したイソノルーブル(桃帽)とシスタートウショウ(黄帽)が大激戦を繰り広げた
凄まじい脚で伸びてくるシスタートウショウ
4コーナーを回り切るあたりで他馬に並びかけられそうになったので、松永は軽くハミを詰めた。すると、イソノルーブルがスッと伸びた。松永は、そのとき初めて勝利を意識した。
一方のシスタートウショウは3コーナー過ぎから進出し、イソノルーブルより7、8馬身遅れて直線に入った。
ラスト400m。先頭のイソノルーブルが内埒から1頭分ほど離れたところで後ろを突き放しにかかる。大外からシスタートウショウが凄まじい脚で伸びてくる。
ラスト200m地点で内のイソノルーブルと外のシスタートウショウとの差は5馬身ほどか。それがラスト100m地点では3馬身ほどに詰まっていた。
イソノルーブルも止まってはいないのだが、内に切れ込みながら追い上げるシスタートウショウの勢いが凄まじい。松永は何も考えられず、ただひたすら追った。角田は差せると信じて鞭を振るった。
松永はこみ上げる涙を抑えられなかった
1完歩ごとに差が縮まり、シスタートウショウがイソノルーブルを差し切りかけ、鼻面を揃えたところがゴールだった。内のイソノルーブルか、外のシスタートウショウか。両馬の鞍上も、どちらが勝ったのかわからぬまま検量室に戻ってきた。
写真判定の結果が出た。イソノルーブルが鼻差だけシスタートウショウの猛追をしのいでいた。
これがイソノルーブルにとっても松永にとっても、初めてのGI勝利であった。桜花賞で果たせなかった大役を、ついに果たすことができた。口取り撮影で左手を突き上げた松永は、こみ上げてくる涙を抑えることができなかった。
松永は、この勝利を含め、2006年に引退するまでJRA・GIを6勝するのだが、そのすべてが牝馬による勝利であった。
興味深いことに、調教師となった松永の管理馬はこれまでJRA・GIを5勝しているのだが、それらもすべて牝馬による勝利なのである。
競馬史に残る名勝負として語り継がれているこのオークスは、そんな「牝馬の松永」にとっての原点と言えるのかもしれない。