一方のイチローさんは『古畑』を愛して下さってる。ほとんどの回のセリフも記憶してらっしゃって、僕にいろいろと質問されるんです。「この回の古畑はこう言ってるんですけれど、それでは別の回のセリフと矛盾します。どちらが正しいんですか」なんて……僕なんてその場、その場で書いていますからね。この人、本当に『古畑』を愛して下さってるんだなと思いました。

世間は「『イチロー、浮かれているな』と思うはず」

　しかも、イチローさんはこう仰った。

「自分がこういうドラマに出れば、世間はおそらく『イチロー、浮かれているな』と思うはずです。だからこそ、自分は本業で今年はもっと頑張らないといけないんです」

　そこまで腹を括ってらっしゃるのかと驚きました。そんなイチローさんの思いを汲みたかったし、やんなきゃよかったとは思って欲しくなかった。絶対に後悔させたくなかったので、僕もイチローさんの資料をいっぱい集めて、その時は必死で勉強しました。イチローさんに楽しんでもらえるように、イチローさんは『古畑』のこういうシーンが好きなんだろうな、丁々発止なやりとり、腹の探り合いが好きなんだろうなと想像しながら、そういうシーンをたくさん書こうと思いました。僕のイメージの中にイチローさんが言いそうなこと、やりそうなことをインプットした上で、”殺人者イチロー”を作っていったんです。

古畑任三郎を演じた田村正和　©Sankei Shimbun

なぜ殺人者イチローは「ウソをつかない」のか？

　ただ、殺人者ではあるんだけど、事件そのものはイチローさんの方に理があるというふうにしたかった。そこから逆算して、「フェアな殺人者」というタイトルになりました。人を殺さなければならないんですけど、見る人がみんな、「これはイチローさんも殺す以外に道がなかったな」と思えるものにしたかった。とはいえ、イチローさんに保身のための嘘はつかせたくない。人は殺すけれども、絶対にウソをつかない殺人者。だから、「フェアな殺人者」なんです。

　僕は立ち会ってないので後から聞いた話なんですけど、イチローさんは本番前の本読みの時、一度も台本を開かなかったそうです。別に覚えなくてもいいんです。ものすごく読み込んで下さったんでしょうね。周りの俳優さんの方が焦っちゃったそうです。

　その時、イチローさんはこう仰ったとか。

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