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【追悼】「田村正和さんはすごく嬉しそうだった」イチロー出演回『古畑任三郎』秘話 三谷幸喜が語っていた“悔い”とは
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph byJIJI PRESS/Naoya Sanuki
posted2021/05/20 11:01
2006年1月に放送された田村正和主演・三谷幸喜脚本の『古畑任三郎ファイナル』にゲスト出演したイチロー
どこかのホテルの部屋で、一緒に本読みをしました。もちろん、その時にはまだイチローさんのための本はありませんから、松本幸四郎さんがゲストだった「すべて閣下の仕業」の回の台本をイチローさんに事前にお渡しして、読み合わせをしたんです。僕が田村正和さんのところを読んで、イチローさんが幸四郎さんのところを読む。犯人と古畑のやりとりをやってみたわけです。そうしたら、僕が思っていた以上にきちんとセリフが言える方だった。すごく安心しました。そこから、イチローさんをどう、役者としてフィーチャーしようかと考え始めました。
イチローから「本人を演じたほうが絶対に面白い」
まずイチローさんにお話ししたのは、イチローさんにどんな犯人を演じてもらおうかということでした。たとえばアメリカで成功した日本のすし職人という設定はどうでしょうと申し上げたら、イチローさんは野球選手のほうが面白いんじゃないかと仰る。けれども、イチローさん本人にしてしまうといろいろな制約が出てくるじゃないですか。だって、あのイチローさんが人を殺すんですよ。いったい誰を殺すんですか。チーム内でのゴタゴタで同僚を殺すとか、コーチを殺すとなったら、問題になっちゃう。
では、イチローさん本人ではなく、限りなくイチローさん本人に近い、ハチローというキャラクターではどうかとお伝えしました。でもイチローさんは、本人が本人を演じたほうが絶対に面白いというお気持ちだった。じゃあ、そうしましょう、と。イチローさんがイチローさんを演じることを前提に、成立する事件を考えました。本人役を演じるといってもフィクションですから、見た人にこれは架空のイチローだとわかってもらわなければなりません。しかも見終わった後、イチローさんにイヤな感情を抱かないようにしなくちゃならない。ここはけっこう悩みましたね。
想像以上に“古畑任三郎マニア”だった
ただ、僕はそもそも野球のことはまったく知らない。イチローさんが何というチームにいるのかも知らないんです。今も海外で活躍されてるんですよね。それぐらいは知ってますけど(苦笑)、チームの名前は……ヤンキースでしたか。ああ、なるほど。いや、知りませんでした(笑)。そんなことも知らない僕が、イチローさんの本を書いたわけです。それこそ、失礼があっちゃいけません。