濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「女優vs交通情報のお姉さん」に18歳同士“意地の張り合い”対決も… 若手勢ぞろいの興行“ピースパ”に見る女子プロレスの未来
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/05/10 11:00
女優の向後桃(下)やプロレス教室からデビューの石川奈青など、近年多くの若手女子レスラーが誕生している
「後輩相手に情けない姿は見せられない」
普段の大会では先輩相手に“玉砕”することの多い若手たちが、キャリアの近いライバルたちとしのぎを削ることで変化し、自信をつけていく。進垣は所属する2AWでは男子との対戦が多く、使う技も“対男子用”になりがちだそうだ。だが女子団体、特にピースパでは武器が増える。
「ふだん男子と試合してるぶん、女子と闘うと“私、意外にパワーあるのかな”と思ったりしますね。先輩相手にはかからない技が成功して、こういうこともできるんだと思ったり」
選手に話を聞いてみると、若手同士だからこそ伸び伸び闘えるという面もあるそうだ。「そんな技、若手がやるもんじゃない」と締め付けてくる先輩はピースパにはいない。
リーグ戦で優勝、5.4横浜大会のメインでつくしが持つIW19王座に挑んだ青木いつ希はキャリア5年目に入ったところ。デビューしたての選手たちとピースパで対戦すると「そんな発想があるのか」と刺激を受けるそうだ。もちろん「この中では負けるわけにはいかない。後輩相手に情けない姿は見せられない」という緊張感もある。
昨年11月に大阪から東京に拠点を移した。元気がよくて声がデカく、パワーファイトが売り物の青木だが、師匠の日高郁人からは細かい技術を集中的に教わっているそうだ。
「これから上に行くと、勢いだけでは通用しなくなるから」
そう日高に言われた青木。つくしとの王座戦は後楽園のメインでも遜色ないような熱戦。勝負を分けたのは、まさにいま習得中の「細かい」技や試合運びだろう。逆に言えば、それが身についた時の再戦が楽しみになるメインだった。つくしはつくしで「プロデューサーとして負けられない」という思いがあったようだ。この大会に合わせてコスチュームを新調してきたあたりにも意気込みを感じる。
リーグ戦参加者がつくしのベルトに挑戦表明
その日、その時の試合だけでなく「これからどうなるか」という楽しみが大きいのが若手の試合だ。技が一つ増えた、以前は決まらなかった技が決まった、前回負けた選手と引き分けた。そうした成長の手応えを選手が得て、それをファンが共有する。
小さな積み重ねの先にあるのは大きなチャンスだ。ピースパには出ていない藤本だが今回はリングに上がり、穂ノ利、マドレーヌ、向後に8.9横浜武道館大会へのオファーを出した。石川、向後、トトロさつきはつくしのベルトに挑戦表明。全員リーグ戦参加者だ。
「リーグ戦で優勝できなかったからそこで終わりじゃなく、こうやって挑戦したい、まだベルトを諦めてないという選手が出てきた。それもリーグ戦をやったからこそだと思います」(つくし)
選手の数だけ物語があり、成長を追う楽しみがある。“デビューラッシュ時代”の今はそれだけ多様な物語を楽しむことができるのだ。そして何年か先、彼女たちはビッグマッチのメインを務めることになる。そうなった時、女子プロレス界はいま以上の活況を迎えるだろう。
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