濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「女優vs交通情報のお姉さん」に18歳同士“意地の張り合い”対決も… 若手勢ぞろいの興行“ピースパ”に見る女子プロレスの未来
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/05/10 11:00
女優の向後桃(下)やプロレス教室からデビューの石川奈青など、近年多くの若手女子レスラーが誕生している
女優によるプロレス団体、アクトレスガールズ
向後が所属しているのは〈女優によるプロレス団体〉を標榜するアクトレスガールズ。演劇をはじめ芸能の世界との結びつきが強い。他団体を見てもアイドル出身あるいは同時進行というパターンも。東京女子プロレスの「アップアップガールズ (プロレス)」にいたっては最初からアイドルとプロレスの二刀流グループとしてメンバーを募集している。
彼女たちの活躍によって「アイドルに(芸能人に)何ができる」といった偏見はずいぶん減った。人前で何かを表現し、思いやテーマを伝えるという部分で試合とライブ/芝居は共通するのかもしれない。度胸も愛嬌も磨かれる芸能活動の経験は、プロレスラーにとって柔道やレスリングといったスポーツ歴と同様の“バックボーン”ではないか。
石川のように一般向けプロレス教室からプロデビューした選手も少なくない。全体の傾向として言えるのは、プロレスラーになるまでのハードルが下がったということだ。言い方を変えれば間口が広がった。
体格に恵まれ、運動神経がいい若者が厳しい入門テストを通過し、寮生活をしながらハードな練習に耐え抜く……プロレスラーとしてデビューするための道は、そうしたものだけではなくなったのだ。家からの“通い”でもいいし他に仕事をしていても構わない。間口が広がれば、それだけ多様な人材が入ってくる。
そもそも、ブームが去ってからのこの業界は厳しい練習と下積み生活で練習生を「ふるいにかける」ほど入門者がいなかったのだ。もちろん必要な練習はするが、数少ないレスラー志願者を丁寧に育てるのが基本。もともとプロレスファンだったアップアップガールズ (プロレス)の乃蒼ヒカリは、練習生時代「先輩たちがこんなに優しくていいんだろうか。プロレスって新弟子が夜逃げしたりするような怖い世界じゃなかったのか」と驚いたそうだ。
「若い女性たちの中にもプロレスファンが増えて」
入門者の幅が広がり、育成のスタイルも変化した。さらに新日本プロレスを筆頭とするプロレス人気の復興も大きい。
「若い女性たちの中にもプロレスファンが増えて、その中からレスラーを目指す人が出てきた感じがします」
そう語るのは藤本。彼女はプロレスを題材にした映画への出演がきっかけで本当にレスラーになった。だからプロレスについての予備知識がなかったが“ファン出身”の選手は「レスラーになれたというだけでは満足しない」そうだ。あの選手と闘いたい、あのベルトがほしいといった野望があるのだ。
向後vs石川は10分時間切れ引き分け。キャリアで上回る向後が攻める展開が続いたが、その中でなんとか食らいつく石川の必死さも目立った。デビュー1周年の試合を終えた石川は言った。
「1年前のデビュー戦は無観客試合。お客さんの前で試合ができるのが本当に嬉しいです。その気持ちを試合にぶつけたつもりなんですけど……なかなか勝てないですね。負けないということはできるようになって、だから余計に勝ちたいという気持ちが強くなります」
ラジオの交通情報案内は休日、連休ほど忙しい。それはプロレスも一緒で、うまくスケジュールをやりくりするのも大事だという。