スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
37歳直前の“戦力外通告”に引退がよぎったが… 42歳森岡薫が給与未払い5カ月でもフットサルW杯に執念を燃やす理由
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byDaisuke Nakashima
posted2021/05/09 17:02
42歳の森岡薫に、W杯メンバー入りの吉報は届くのだろうか
若手中心のチーム作りを打ち出した監督と考え方が合わず、衝突してしまったのだ。
「僕が目指しているフットサルと監督がやろうとしているフットサルの違いが大きすぎて。監督は若手を育てたいから、なかなか自分が思うような練習内容ができなかった」
このままでは翌年のワールドカップに招集されないのではないか。そんな危機感を抱いた森岡は、環境を変えることを決意する。
「他の選手たちとの違いを出すためには、強いリーグで戦わなきゃいけない」
そう考え、いくつかの人脈を当たっていた矢先に届いたのがオパルロからのオファーだった。
スペインリーグでの経験を武器に、ワールドカップ行きの切符を掴む。森岡が描いていた青写真はしかし、パンデミックという想定外の不可抗力によって大きく狂わされた。
未払い5カ月、アウェー戦では旅費を節約
昨年7月にオパルロとの契約を延長し、新シーズンに向けてスペインに戻った森岡は、チームを取り巻く状況が大きく変わっていることに気づく。
「いろんなスポンサーが抜けたりして、未払いが5カ月近く続いていて。それを疑問に思う選手、『戦う意味あんのか?』って選手がいる中で、結果も付いてこない。言い訳にはしたくないんですけどね」
元々、資金力に乏しい町クラブだったオパルロの財政はコロナ禍でさらに悪化。旅費を節約するため、アウェー戦はぎりぎりの人数のみ連れて行くような状況が続いている。
さらには関係者に陽性反応や濃厚接触者が出るたび、試合もトレーニングもできなくなる。ピッチ内外で不安定な状況が続く中、チームは最下位が定位置となり、森岡もシーズン前半は立て続けに怪我に見舞われた。
2月27日には森岡の獲得に一役買ったエクトル・ソウト監督が辞任。監督交替後も光明は見えず、オパルロは4試合を残して2部降格が決まった。
自身もいまだノーゴール。これまで常に強豪クラブでプレーしてきた森岡にとって、点を取れないことも、チームが勝てないことも初めての経験である。