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小平奈緒が下した“思い切った決断”の理由 「自分で決めた道なので、たとえ成功しなくても正解になっている」
posted2021/05/10 06:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
KYODO
2018年平昌五輪でスピードスケート女子500mの金メダルに輝いた小平奈緒が、'22年北京五輪での連覇を見据え、例年より早めの4月中旬に本格始動した。
昨季序盤は女子500mでおよそ5年ぶりに国内大会で敗れるなど、もどかしい成績が続いた。しかし、コロナ禍で海外レースを転戦できなかった11月下旬から12月中旬にあえて氷上から離れ、陸上トレーニングに専念するという思い切った強化策を敢行。平昌五輪以降の'18年秋から少しずつ積み重なっていた左股関節の違和感の解消に全力を注いだ。
「感覚の違いに気づいて、ここで着手しなければと思った。変化していく体と向き合う時間をしっかり取ることができた。自分で決めた道なので、たとえ成功しなくても正解になっていると思う」
小平らしい深い思索と覚悟の下に挑んだ取り組みは功を奏し、年が明けると上昇ステップを刻み始めた。
シーズン最後の大会となった3月上旬の長根ファイナル(青森県八戸市)では、今季初めて500mと1000mの両方を制し、修正の軌道に乗った状態で滑り納めした。「トップコンディションであれば満足のいくタイムではなかったが、今季の過程を振り返ったときに、前に進んでいる感覚を感じられた」と充実感をにじませた。そして、「苦しんだと思われるかもしれないが、すごく乗り越えがいのある、面白みのあるシーズンだった。深みのある選手になれたと実感している」と、柔らかい笑みを浮かべた。
「応援される、応援するというやりとりがあって」
北京五輪シーズンの始動に先立って、4月2日には所属の相澤病院がある長野県松本市で東京五輪の聖火リレーランナーを務めた。小平は茅野市生まれ。胸にあったのは自身が小学5年生の時に開催された'98年長野冬季五輪の感動だ。
「幼いながらに五輪は素晴らしい舞台だと感じた。五輪が地方を元気づけてくれたという記憶もある。その時に灯された心の火が、今こうして燃えているのが感慨深い。様々な考えの方がいると思うが、選手が純粋に競技に励む姿を応援したい」
小平には「応援される、応援するというやりとりがあって初めてスポーツが成立する」という思いがある。すべてをぶつける北京五輪に向け、心の準備は既に整っている。