濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
減量していたのに「カップ麺食べながら泣いて、YouTubeで…」 ぱんちゃん璃奈が明かす、突如試合が遠のいた格闘家の思い
posted2021/04/29 17:04
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Def Fellow
4月23日金曜日、緊急事態宣言発出についての会見があった夜に、キックボクサーのぱんちゃん璃奈はカップ麺を食べた。自分の試合が延期になったからだ。
彼女は4月25日、ベルトを保持する主戦場『KNOCK OUT』の後楽園ホール大会に出場するはずだった。しかしこの日から緊急事態宣言が発出されることになり、大会は1カ月後の5月22日に延期。つまり、ぱんちゃんをはじめとする選手たちは減量の必要が(一時的にではあるが)なくなったのだ。
格闘技は基本的に階級制のスポーツで、試合の前には規定体重の計量がある。多くは大会前日の昼間に行なわれる。25日の試合が延期になったということは、24日昼の計量がなくなったことを意味するのだ。
ぱんちゃんの場合は、金曜夜の時点で契約体重46.5kgから2.2kgオーバーの状態に仕上げていた。栄養士について普段から食事に気をつけ、試合が近づくと減量を開始。最後の2日間は塩分の摂取を1g以下に抑えた。汗をかいて体重を落とす「水抜き」の効果を上げるためだ。塩分を摂取しすぎると、体内に水分をためこみやすくなってしまう。ぱんちゃんの場合は1時間の半身浴で2.5kg落ちるから、あとは計量の朝、半身浴をするだけだった。それで試合への準備が整う。
もちろん、試合前の1カ月ほどは「追い込み」と呼ばれる厳しい練習がある。不安やプレッシャーも。肉体的にも精神的にもハードな時間を過ごし、好きな食べ物も我慢して、あとは一晩寝て1時間の半身浴。そういう時に緊急事態宣言で試合が1カ月先になった。愕然とするしかなかった。
「試合がなくなるとは1ミリも思ってなかった」
25日の夕方、本来であれば後楽園の控室にいたであろう時間に、所属ジムStruggleを訪ねた。すでに練習を再開していたぱんちゃんだが、完全に気持ちが切り替わったわけではないと微妙な表情を見せた。
「大会延期の発表があったのが夜の9時。私は8時すぎくらいに聞きました。最初はどういう意味か理解できなかったです。試合がなくなるとは1ミリも思ってなかった。1月の緊急事態宣言の時は興行ができてましたから。今回はそれより重くなるとしても、試合はできるだろうと」
何をすればいいのか分からないので、とりあえず「緑のたぬき」を食べることにした。普段は体のためにカップ麺を口にしない。食べるのは試合を終えた夜だけ。いわば“ごほうび”だ。ジムに再度「本当に明日の計量、ないんですよね?」と確認のLINEを入れ、答えを待って「で……お湯を沸かしました(笑)」。