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ビエルサの愛弟子が語るオシムとの違い 「人もボールも動く」サッカーは同じでも指導法が“真逆”なワケ
posted2021/04/18 06:00
text by
赤石晋一郎Shinichiro Akaishi
photograph by
Getty Images(L),BUNGEISHUNJU(R)
2005年2月、荒川友康は滝川二高のコーチを辞して、ジェフユナイテッド市原・千葉のユースコーチに就任することが決まった。マルセロ・ビエルサの薫陶を受けた荒川は、千葉の地でもう一人の「天才」を知ることになる。イビチャ・オシム、当時のジェフのトップチーム監督である。ユーゴスラビア(現・ボスニア・ヘルツェゴビナ)のサラエボ出身の指導者であるオシムが演出するサッカーは、日本サッカー界に衝撃をもたらした。
荒川が振り返る。
「私は育成部門に籍を置いていたので、フェンス越しでしたがオシムさんが指導するトップチームの練習をよく見学していました。マルセロの指導とは全く違う練習方法は衝撃でした。2人のサッカーの最終形はとても似ているのですが、それに至るまでのプロセスは全く違うというのはとても興味深いものでした」
共に「走るサッカー」を戦術の柱にしている
ビエルサとオシムには少なくない共通点がある。共に190cm近い大柄の体格を持ち、のっそりと歩く風貌はどこか似ていなくもない。戦術的においても人もボールも動く攻撃的な姿勢は似ており、現代サッカーでは珍しいマンマークディフェンスを採用しているところも共通し、「走るサッカー」を戦術の柱にしているところも同じだ。
オシム招聘の為に尽力した元ジェフ強化担当の辰己直祐が当時を振り返る。
「ある日、FWの巻誠一郎君が『走れと言われても、僕はどこに走ればいいかわからない』とオシムさんに質問したのです。するとオシムさんは肩をすくめて、『それでもいい。走れ』とだけ指示した。オシムさんは選手をよく観察しているので、巻君には細かい指示は適さないと考えたのでしょう。
選手が走ればスペースが出来る。そのときジェフにはオシムさんの教え子であるFWマリオ・ハース(元オーストリア代表)がいた。巻君が走って作ったスペースは、戦術理解度が高いハースが使う。だから心配せずに走れ、ということだったのです(笑)。
2列目、3列目からどんどん選手が飛び出してくるサッカーというのが、オシムサッカーの特徴です。オシムさんは『90分走れるチームは走らないチームより強い。走らないで勝てるサッカーがあるというなら、私に教えてくれ』とまで語ったことがあります。この哲学はリーズのサッカーを見ていても共通したものを感じますね」