続く4番・柴田疾が放ったレフトの頭を越えフェンスに直撃する打球は、この試合初先発のセンター・原駿太がクッションボールを無駄のない動きでカバーし、二塁打でとどめた。さらに、5回2アウト満塁の場面。明豊の太田は、東海大相模・小島の足元を襲う強烈なゴロを尻もちをつきながらグラブに収め、ピンチを脱した。

3人の継投策は過密日程で勝ち上がる「模範」に

　準決勝までの4試合は1点差が3試合、2点差が1試合と接戦を制してきた。大会屈指の好投手を擁する市立和歌山や中京大中京、優勝候補の智弁学園を撃破。堅い守備と1点を確実に取る攻撃。さらに、3人の投手による継投策は、甲子園の過密日程で勝ち上がる「模範」を示したといえる。

「史上最弱」のチームは、春夏通じて創部初となる決勝まで進んだ。

　大会期間中にも急成長し、過去最高の成績を残した。川崎監督も「スター選手がいないので、個々の役割を全員が全うする。自分に与えられたポジションを全力でという姿がうれしかった。選手のおかげで試合の幅が広がったので選手に感謝したい。今できる野球としては全て出し切った」と選手の成長を実感しつつ感謝した。

「記録上は褒めてあげたい気持ちがあるが」

　では――新チームに貼ったレッテルは剥がれたのか。

　指揮官は、こう語った。

「高校生がアウトにできるボールはアウトにしてきた。記録上は褒めてあげたい気持ちはあるが、ここで守りがよくできたと満足してしまうと、これ以上はない。高校野球は夏が最後。謙虚さや反骨心を失ったらもう成長しなくなってしまう。まだまだまだまだ、もっともっとという気持ちを忘れずに。準優勝した喜びよりも、準優勝になってしまった悔しさを持って、あすから進んでほしいと思っている」

　主将の幸にも準優勝への満足感や慢心はない。指揮官と気持ちは同じだ。

「優勝インタビューを目に焼き付けて、毎日毎日練習する。この負けがあったから夏に優勝できたと言えるようにしたい。投手を中心とした守備力がしっかりしていたことは自信にしていきたいが、この決勝で勝てなかったのは本当にダメだと思う。日本一になるために練習してきたので、まだまだだと思います」

　届かなかった、あと1勝。「史上最弱」のチームは夏に「全国最強」を証明する。