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<奇跡の復活劇>照ノ富士が「入り待ち」の女性ファンを素通りした日…運命を逆転させた“あの一番”を検証する
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byJIJI PRESS
posted2021/03/31 11:05
照ノ富士(右)と朝乃山の初顔合わせとなった2020年七月場所13日目の一番。照ノ富士が寄り切りで勝った
東前頭十七枚目、幕尻の照ノ富士は万全とは言えないものの力強さを取り戻しており、11勝1敗で優勝戦線に名を連ねていた。そして十三日目に、同じ星で並んでいた大関・朝乃山と対戦することになった。
この初顔合わせが、ふたりの相撲人生に大きな影響を与える象徴的な一番となる。
右の相四つ同士、戦前は好調の朝乃山が有利との予想が多かった。実際、両者ともに小細工なしに立ち合い、予想通り右四つになった。
最初のうちこそ、お互い上手を取っていたが、朝乃山は上手が深すぎたこともあって、命綱でもある上手が切れてしまう。逆に照ノ富士は巧妙な差し手争いから万全の形を作り、一気呵成に攻め立て、朝乃山に反撃する機会を与えず、照ノ富士の完勝となった。
照ノ富士の5連勝「運命が逆転した日」
驚くほど、あっさりと勝負がついてしまったのだが、2020年から今年の相撲を振り返ったとき、この一番の意味は大きかった。
七月場所の十三日目の時点では、朝乃山には一気に横綱へと駆け上がる期待が寄せられていた。初顔合わせを前にして、本人も右四つがっぷりで、十分に勝てると踏んでいたのだろう。ところが、ふたを開けてみると、照ノ富士の圧勝で、朝乃山には成す術がなかった。
この日を境に、照ノ富士と朝乃山の「運命」が逆転したように思う。
朝乃山にとって「苦手」が生まれた日であり、一方の照ノ富士にとっては2015年五月場所以来の優勝賜杯を手にして、序二段から大関への復帰という筋書きを軌道に乗せた。
ここで勝負付けが済んでしまったのだろうか、今場所までこのふたりの対戦成績は照ノ富士の5連勝と、一方的な展開になっている。
もしも、この一番で番付通りに朝乃山が勝っていたとしたら、朝乃山は綱取りのチャンスがあったのではないか。
13勝、8勝、13勝、11勝、12勝
照ノ富士はこの五場所、安定した成績を残している。