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エディー解任騒動に“血の契約”を結ぶ選手が反論? 欧州の名将たちが試行錯誤する2023年W杯へのピーキングとは
text by
竹鼻智Satoshi Takehana
photograph byGetty Images
posted2021/03/31 17:00
優勝候補と目されながらも、シックスネーションズは5位で終わったイングランド代表。だが、指揮官エディー・ジョーンズはきっと“本番”に照準を合わせてくるはずだ
“鬼コーチ”が率いるフランス代表
そんなピバック氏と対照的に「あまり“いい人”ではない」と評判なのが、フランスを率いるファビアン・ガルティエ、52歳だ。
2023年地元開催のW杯へ向けて、長い低迷ーーフランスラグビー界の失われた10年を取り戻す、というミッションと共に昨年、代表チームへやってきた。昨季に引き続き、シックスネーションズを2位で終えるなど、レ・ブルー(フランス代表の愛称)の強化を着々と進めている。
選手時代はSH(スクラム・ハーフ)として、フランス代表64キャップ。その後は指導者として、スタッド・フランス、モンペリエ、トゥーロン、と渡り歩いた。代表HCの椅子はようやく辿り着いた、夢の仕事である。
ただ、“鬼のヘッドコーチ”として知られる男は、何かと極端な性格の持ち主だ。プロクラブの指導者としては、それぞれのクラブに徹底的に変革をもたらし、「破壊して去っていく」とまで言われる始末。時には、とある選手に汚い言葉を浴びせ、徹底的に追い込んだこともある。あまりにもその選手を心身ともに徹底的に追い込んだため、主力選手たちが「ファビアン、それはやめてくれ」と止めに入ったというエピソードも複数あるほど。
ガルティエが植え付ける「競争」
ただ代表合宿というものは、クラブ活動とは異なり、ともに生活を共有するのは、せいぜい1、2カ月と短いもの。「この短期間だけ、HCの言う通りにしていれば」何とかなる。さらに目に見える結果が後押しした。昨季のシックスネーションズでは、19年W杯に出場した36選手中22選手が代表から外れ、平均年齢24歳と一気に若返りを図り、しかも初戦でいきなり優勝候補イングランドを倒してしまった。非人道的な厳しさを持つ鬼HCであっても、短期集中の厳しい指導で結果が出るのであれば、選手たちはついていくのだ。
元スコットランド代表で、フランスのクラブでガルティエHCの指導のもとでプレーしたジム・ハミルトン、ジョン・ビーティー、デイブ・アトウッドらが英国メディアに“厳しい指導”のエピソードを語っているが、彼らは皆、「ガルティエの指導者としての能力は超一流」と認めている。
「自分が求めるパフォーマンスを見せられない選手はいつでも切り捨て、短期集中で徹底的にやれる代表は、ガルティエに合っているだろう」
元教え子たちの説得力のある言葉だ。
どの国の、どのスポーツでも「トップの才能を集め、結果を出す」というのが代表チームの使命だ。才能のない者は、今すぐこの場を去れ――将来を嘱望された若手を競わせるレ・ブルーは、鬼HCのもとでどんな軌跡を辿っていくのだろうか。