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エディー解任騒動に“血の契約”を結ぶ選手が反論? 欧州の名将たちが試行錯誤する2023年W杯へのピーキングとは
text by
竹鼻智Satoshi Takehana
photograph byGetty Images
posted2021/03/31 17:00
優勝候補と目されながらも、シックスネーションズは5位で終わったイングランド代表。だが、指揮官エディー・ジョーンズはきっと“本番”に照準を合わせてくるはずだ
ウェールズを優勝に導いたNZ人
優勝したウェールズを率いるのは、前任者のウォーレン・ガットランドと同郷のニュージーランド出身のウェイン・ピバックHC(58歳)だ。
ガットランドがあまりにも大きな実績を残したことで、新任代表HCとしての肩にのしかかる重圧は想像を絶するほどだ。2007年W杯フランス大会での惨敗後に就任したガットランドHCは、11年W杯で4位、15年W杯でベスト8、19年W杯では4位と安定した成績を残した。現在は、6月に日本との対戦が控えるブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズの指揮官を担っている。
そんな長期政権を担った前任者から受け継いだピバックHCは、その“資産”に自分の味つけを施し、チーム戦術を大きく変更した。ガットランド政権下では「ウォーレン・ボール」というジョークが飛び出すほど、「肉弾戦ラグビーを挑むチーム」と呼ばれた。
この反動かどうかは本人にしか分からないが、2020年以降のウェールズ代表は華麗な展開ラグビーを用いた戦術を執ることが多くなった。しかし、昨季の戦績は3勝7敗。しかもその3勝が、格下に当たるイタリアに2勝、ジョージアに1勝だというのだから、ピバックHCは心労を重ねていたのだろう。
そんな状況を打破すべく、ピバックHCは思い切った決断をする。個人的な友人であり、プロの同僚同士とも言える仲だった、ディフェンスコーチを解雇したのだ。そんな背景からか、今回のシックスネーションズ開幕前は、当然のようにいつ代表HCのクビが飛ぶかというプレッシャーにさらされた。だが、この「プレッシャーの力」を「勝利への願望」へ上手く変えることができた。
選手を信じて「調和」を重んじる“いい人”
今大会では、20歳の若手WTBルイス・リースザミットを全試合で起用するなど若手の血を入れながらも、引き続き35歳のアランウィン・ジョーンズ(LO)をキャプテンに据え、31歳のダン・ビガー(SO)、30歳のジョシュ・ナビディ(FL)などのかつてからの主力組を重用。少ないチャンスや、運を確実に得点に結びつけ、老獪に接戦をものにしている。不調に終わった昨季から大きなメンバーの入れ替えも行っておらず、ピバックHCは選手たちを信じて結果を出した。
ニュージーランド人の国民性なのか、基本的に“いい人”であるピバック氏。連敗が続いていたころ、地元メディアは「代表HCとしての厳しさに欠ける」と書き立てていたが、今大会でチーム内だけでなく、代表チームへの信頼もさらに強固なものになったに違いない。
欧州ラグビー界で最も名誉ある、“グランドスラム”(全勝優勝)こそ逃したが、優勝トロフィーを勝ち取ったウェールズ代表。自宅で優勝決定後のオンラインインタビューに応じたピバックHCはスポーツウェア姿で登場し、「今日はウェールズという国に、乾杯しましょう」と嬉しそうにニッコリと笑っていた。