甲子園の風BACK NUMBER
賛否ある“いきなり同地区対決”など異例のセンバツだが… 福岡vs沖縄の九州勢だからこその“超・心理戦”とは
text by
間淳Jun Aida
photograph byKYODO
posted2021/03/27 06:00
福岡大大濠と具志川商の一戦は、同地区対決らしい駆け引きの妙があった
バッテリーの「心が合った」スクイズ外し
福岡大大濠はノーアウト一塁で、7番・毛利が投手前にバント。2番手で登板した具志川商の新川が勢いを失った打球を取って二塁へ送球するが、フィルダースチョイス。マウンドに上がらないときはショートを務める新川だが、フィールディングに自信があるからこその判断ミスに助けられる形でチャンスを広げた。
続く松尾が犠打を決めて1アウト二、三塁。どのような作戦で勝ち越し点を奪うのか。打席の土山快斗は初球、2球目ともにバットを振らず、カウント1ボール1ストライク。3球目。スクイズを警戒した具志川商バッテリーが、外角に大きくボールを外す。土山のバットは動かない。そして、4球目。三塁ランナーの毛利がスタートを切った。
「自分も気付いて、キャッチャーも外してくれた。心が合っていた」
新川は相手の作戦を読んで投球を外し、三塁ランナーをアウトにした。
ピンチをしのいだ裏の攻撃。先頭の島袋がセンター前ヒットを放つ。やはり具志川商業に追い風が吹いているのか。打席には初回に本塁打を打っている新川。だが、4球連続のストレートに一度もバットを振ることができず見逃し三振。福岡大大濠の毛利に完全に裏をかかれた。それでも、一塁ランナーには俊足の島袋がいる。島袋が二塁へスタート。ここでも、捕手・川上が強肩で盗塁を阻止。流れを断ち切られ無得点。風をつかめない。
8番に打順変更した松尾の値千金のホームラン
どちらのチームに勝利を運ぶのか決めかねている甲子園の風。延長戦までもつれ込んだ試合を決めたのは8番・松尾だった。
延長11回、新川のストレートを思い切り引っ張った打球は、浜風に乗ってレフトスタンドで弾んだ。
九州大会では5番に座った強打者。八木監督は「松尾は8番の方が気楽に打てる。打線に得点源を2つ作りたいので、打順のめぐりで力のある松尾がいてくれたらと思って8番に置いている」と"降格"ではないと意図を説明する。その起用に応える一発だった。粘る具志川商に大きなダメージを与えて勢いに乗った福岡大大濠は、さらに3点を加えた。
相手の手の内を知っているからこその心理戦
敗れはしたが、具志川商は大会屈指の好投手で、昨秋は完封された毛利から4点を奪った。今大会のセンバツは初戦から同じ地区同士の対戦が組まれた異例の形式となっている。21世紀枠も含めて、大会の方針に否定的な意見が少なくない。ただ、センバツをかけた地区大会で対戦し、相手の手の内を知っているからこそ楽しめる駆け引きや、心理戦もあるのだ。
福岡大大濠は、同志である大崎と具志川商の思いも背負って、聖地での戦いを続ける。