フィギュアスケートPRESSBACK NUMBER
トリノで“誰も信じなくなった”安藤美姫が2度の世界女王になるまで「記録ではなく記憶に残る選手になりたかった」
text by
河崎環Tamaki Kawasaki
photograph byNanae Suzuki
posted2021/04/14 11:01
現役引退から8年が経った安藤美姫さん(33)
「家やご家族を亡くされた方もいらっしゃる中で、自分はスケートをしていていいのか」と考えていた安藤は、世界選手権の出場も棄権しようと考えていた。震災地のファンからこの手紙が届かなければ、彼女はきっと世界選手権に出ていなかっただろう。「トリノ五輪の後に声をかけてもらったときもそうでした。いつもファンの言葉で『自分がこれまでやってきたスケートで、こんな私でも人々を笑顔にできるんだ』と気づかされます。この時も、手紙の言葉に後押しいただき、自分のためではなくて、応援してくださる人たちのために演技しようとロシアに向かいました」。
東日本大震災直後の2011年4月、安藤は初めて「待ってくれている人たち」のために滑った。すると驚くことに、結果がついてきた。SPで2位、FSで1位、総合1位。4年ぶり2度目の世界選手権優勝を果たした。「世界選手権だけれども、本当に穏やかに過ごせました」。これまでにないスケーティングを終えることのできた安藤に降りてきたのは、スケーターとして、もうやり遂げたという実感だった。
「記録ではなく記憶に残る選手になりたかった」
「よく『将来どういう選手になりたいですか』って聞かれていたんですけど、ずっとなかなかうまく答えられなかったんです。私は記録ではなく記憶に残る選手になりたいと思ってきて、あまり結果を求めてスケートをやっていなかったんですね。納得のいく演技ができなくて優勝するよりは、自分の納得のいく演技をして最下位の方が私は嬉しい。だから普段の生活、試合に向けたメンタルの運び方とか色々、そのシーズン本当にしっくりきたものがあって」
安藤の心に、引退の2文字が浮かんだ瞬間だった。
2013年7月、テレビ番組で「2013-2014シーズンを最後に現役を引退する」ことを発表。そして、同時に4月に1児の母になっていたことを電撃公表したのだ。これによって、再び安藤美姫に厳しいバッシングが向けられることになる。
(【続きを読む】 33歳安藤美姫が振り返る“母での復帰”「『出産を経ての復帰は無理だ』という声に疑問を覚えました」 へ)