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【F1開幕】「負けたままでは撤退できない」エンジニアの誇りを懸け、ホンダが“前倒し”新PUで最後のシーズンに挑む
posted2021/03/25 17:01
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
3月26日、2021年のF1が開幕する。毎年、多くのチーム、そしてエンジンマニュファクチャラーが新しいマシンやパワーユニット(PU)を投入してくるが、なかでも特別な思いで開幕戦を待っているのが、ホンダだ。
すでに21年限りでF1参戦の終了を発表しているホンダにとって、今年はF1ラストイヤーとなる。最後のシーズンを戦うにあたって、ホンダはこれまでのエンジンのデザインを見直し、大きく手を加えた新PU「RA621H」を投入する。
その変更点は多岐にわたる。まず、カムシャフトのレイアウトを大幅にコンパクトにして、位置を下げた。これにより、バルブ挟み角などもすべて変わり、燃焼室の形状も大きく変更された。目的は、なんとしてもパワーを上げ、現在F1で最強と言われるメルセデスに対抗するためだ。
パワーだけではない。カムシャフトを下げ、燃焼室の形状を変えたことで、シリンダー上部がコンパクトになり重心も下がった。さらにホンダはボアピッチ(シリンダー間の距離)も縮めて、重心だけでなく、PU自体をコンパクトにした。それゆえ、ホンダはこの新しいPUを「新骨格」と呼ぶ。
お蔵入りの危機もあった新パワーユニット
なぜ、ホンダはF1ラストイヤーにリスクを冒して、新しいPUを投入してきたのか。もちろん、F1でチャンピオンになるため、現役王者のメルセデスを倒すという目標を達成するためであることは確かだ。だが、理由はそれだけではない。ホンダの技術者としてのプライドが、新骨格開発の大きなモチベーションとなっているのだ。
この新骨格はもともと21年の実戦投入を目指して昨年のはじめから開発が始まったが、直後に新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、計画が凍結。投入は22年と1年後ろ倒しにされた。そのため、ホンダはPUの開発責任者の浅木泰昭の下、21年は20年型のPUをアップデートしたもので戦い、新骨格のPUは22年に投入することを決定。従来型PUのアップデートを本格化するとともに、22年用の新骨格の開発も並行して始めていた。
ホンダがF1参戦終了を発表したのは、そんな矢先だった。当時、レースが開催されていたサーキットに赴き、FIA(国際自動車連盟)やパートナーであるレッドブル、アルファタウリと交渉していたホンダの山本雅史(マネージングディレクター)はこう述懐する。