格闘技PRESSBACK NUMBER
「武道館はアイドル時代に諦めた夢」中野たむvsジュリアの“髪切りマッチ”だけじゃない、女子プロレスの“魅力”とは
text by
原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2021/03/13 17:01
3月3日、スターダム初の武道館大会で敗れたジュリアは髪を失い、勝った中野たむのテーマ曲が武道館に流れた
知れば知るほど、目の前の戦いが味わい深いものに
そうやって知らなかった世界に没入してゆくと、次第にその世界のことを知りたくなる。それぞれの戦いや団体、プロレスそのものが持つ歴史、自分がその世界を知ることになるより前にあったできごと。知れば知るほど、更に目の前の戦いが味わい深いものになり、ますますプロレスを楽しめるようになる。目の前の戦いに様々な歴史的な意味があることもプロレスの魅力だ。
10周年という節目の大会は、どの試合も歴史的な意味のあるものだった。
岩谷麻優vs.世志琥の15分は6年間の溝を埋めた
例えば、岩谷麻優と世志琥(世IV虎)は共にスターダムの旗揚げ戦でデビューした1期生だ。5人がデビューした1期生だったが、現役として活動を続けているのはこの2人だけになった。その2人によるシングルマッチは10周年記念大会に最もふさわしい試合だったが、世志琥がスターダムを離れた経緯から、その実現は困難かと思われていた。
しかし、まさかが起こるのもプロレスの魅力だ。引退したレスラーが復帰することも、袂を分かった人間が戻ってくることも「一寸先はハプニング」の言葉が広く知られるように、何が起こってもおかしくはない。
なぜそういうことがあり得るのか、それは選手たちがプロレスを広めたいと思っているからだ。大会前の記者会見で世志琥は「女子プロレスを世間に広めたいから、女子プロレスをやってる。自分と岩谷麻優、このカードで女子プロレスを世間に届けたいから、自分はこの試合をやりたいと思った」と気持ちを明かした。
そして、僅か15分で6年間の溝が埋まった。試合後、岩谷は「別々の道だったかもしれないけど、これからは違う。一緒の未来っていうのを、自分は味わってみたい」、世志琥は「これからも、お前との未来をこの先もずっとつなげていきたい」とそれぞれ述べた。