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「武道館はアイドル時代に諦めた夢」中野たむvsジュリアの“髪切りマッチ”だけじゃない、女子プロレスの“魅力”とは
text by
原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2021/03/13 17:01
3月3日、スターダム初の武道館大会で敗れたジュリアは髪を失い、勝った中野たむのテーマ曲が武道館に流れた
ジュリアが格好良すぎる坊主姿になるのは明らか
髪切りマッチ、という強烈な要素が注目を集め、武道館のトリを飾ったジュリアvs.中野たむは、そのことについて改めて考えさせてくれる試合でもあった。
中野に敗れて髪を失ったジュリアは試合後「上を見上げて、いきたいところに走っていった方が、生き甲斐になるんじゃないの?」「生き様を見せればいいんじゃないかな。生き様を見せるのがプロレスラーでしょ」とコメントを残した。
その時のジュリアはまだ左半分しか刈られてない状態だったが、『エイリアン3』のシガニー・ウィーバーや『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のシャーリーズ・セロン、『アンダーウォーター』のクリステン・スチュワートのように、格好良すぎる坊主姿になるのは誰の目にも明らかだった。髪切りマッチというインパクトや、敗れて不本意ながらも手に入れることになったその格好良さは新たなきっかけであり、これまで以上に注目を集めることになる。そして、そこからの生き様を見せる姿にファンは魅せられる。だからジュリアはこれまで以上に人気を高めるだろう。
夢を叶えるために戦う選手に人は自分の夢を見る
一方、勝った中野は「武道館というのは、私がアイドル時代に絶対に無理だって諦めた夢の1つで、そこに立てること自体実感がなかったんですけど、夢を取り戻すのはいつからだって遅くないんだなって思いました」と語った。レスラーはファンの夢を代わりに叶えるだけでなく、戦うことで自身の夢も叶えてゆく。歌詞の終盤にはこうある。
“無くしてきた 遠い夢も 星空を泳いで追い越していく”
夢を叶えるために生き様を見せて戦う選手に人は惹き寄せられ、観客もその選手の中に自分の夢を見る。そして“いつの間にか知らない景色”を共に見ている。今回の武道館大会もその1つだ。
プロレスが人々を惹きつけて離さない核の部分、それを現在の女子プロレス界で最大の大会の大トリを務めた2人がそれぞれで感じさせてみせた。
これだけでもこの大会がベスト興行であり、中野の曲がその大会を締めるのに相応しい十分な理由だが、これだけではない。