Jをめぐる冒険BACK NUMBER

「東北人は耐え忍ぶメンタリティを」宮城出身の番記者が心打たれた手倉森監督の人間力【2011年のベガルタ仙台】 

text by

飯尾篤史

飯尾篤史Atsushi Iio

PROFILE

photograph byToshiya Kondo

posted2021/03/11 06:02

「東北人は耐え忍ぶメンタリティを」宮城出身の番記者が心打たれた手倉森監督の人間力【2011年のベガルタ仙台】<Number Web> photograph by Toshiya Kondo

ホーム再開となった浦和戦。キックオフ前の晴れ渡る空とともに勝利を手にした光景はチームもサポーターも報道陣も忘れない

「東北人はじっと耐え忍ぶメンタリティを持っている」

 張り詰めていた糸が切れたのか。いや、それ以前からぎりぎりの戦いを強いられていたため、限界を迎えていたのか……。

 6月26日の清水エスパルス戦に敗れて初黒星を喫すると、チームはここから9試合勝ちなしと調子を落としてしまう。

「監督は、自分たちの立ち位置をもう一度思い出そうと。希望の光になることを絶対に忘れてはいけない、というところを選手たちに問い直して、鼓舞していたと思います。東北人はじっと耐え忍ぶメンタリティを持っている。そういうメンタリティを出しやすいのは守備なんだという話も、この頃よくされていました」

 コーチングスタッフも、立て直しに必死だった。

「スタッフは勝ち星がない時期、タックル数や攻撃で仕掛ける回数が減っていることに気づいたそうです。選手たちに明確な数字を示し、『負けたくない』という後ろ向きの感情を指摘することで、崩れたバランスを修正しようとしていた。だから、きっかけさえあれば、と感じていました」

10試合ぶりの勝利後、リーグ戦11試合負けなし

 そのきっかけはようやく、8月20日に訪れた。アウェーの名古屋グランパス戦で1-0と10試合ぶりに勝利。長いトンネルを抜けると、再び光が差し込んだ。そのまま、リーグ戦11試合負けなしを記録するのだ。

 11月26日に行われたアウェーのガンバ大阪戦には敗れたが、ホームで迎えた12月3日の最終節、ヴィッセル神戸戦に2-0と勝利し、クラブ史上最高となる4位で未曾有のシーズンのリーグ戦を終えた。

渡辺広大のスピーチに思い出した1年間

 その試合後のことである。セレモニーでマイクの前に立った渡辺広大が「今シーズンの我々は、皆さんの希望の星になれましたか」とファン・サポーターに問いかけると、スタンドは拍手で包まれた。

「渡辺選手のスピーチを聞きながら、地震直後の惨状や、この1年のベガルタの戦いぶりを思い出していました。ベガルタの躍進に勇気をもらったファン・サポーター、県民がどれだけいたか。そうした方々の思いに想像をめぐらせて、心の中で『感動をありがとう』とチームに感謝しましたし、自分の仕事を通じて、辛い思いをされている被災者が少しでも前向きになれるよう、貢献していきたいと思いました」

【次ページ】 濃密な2年、今の営業部でもベガルタとの関係は続く

BACK 1 2 3 4 5 NEXT
ベガルタ仙台
柳沢敦
武藤雄樹
手倉森誠
河北新報

Jリーグの前後の記事

ページトップ