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「東北人は耐え忍ぶメンタリティを」宮城出身の番記者が心打たれた手倉森監督の人間力【2011年のベガルタ仙台】
posted2021/03/11 06:02
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
Toshiya Kondo
普段であれば、記者失格のレッテルを貼られてもおかしくない。
『河北新報』のベガルタ仙台担当の千葉淳一は興奮のあまり、記者席で「よし!」と叫んでガッツポーズをしたのだ。
だが、この日ばかりは、その行為を白い目で見る者はいなかった。周りのベガルタの番記者もみな、同じように喜びを爆発させていた。
チームの姿を報じることで、被災地に勇気や元気を届ける
2011年4月23日、雨の等々力陸上競技場で行われた川崎フロンターレ対ベガルタ仙台戦。48日ぶりにリーグが再開したこの日を振り返るとき、千葉の脳裏にまず蘇ってくるのは、試合前のなんとも言えぬ感情と、スタンドの光景である。
「チームの姿を報じることで、自分も被災地に勇気や元気を届けるんだと。勝ってよかった、負けて残念だった、ではない報道をしないといけないと思っていました」
いよいよ再開するワクワク感と、果たしてベガルタはどれだけやれるのかという期待と不安、被災地のチームを追う自身に課せられた記者としての使命感……。複雑な心境で記者席に着いた千葉は、改めてサッカーの持つ力を目の当たりにする。
「フロンターレのサポーターが『FORZA SENDAI』と書かれた横断幕を掲げてくれて、ベガルタのチャントを歌ってくれたり、ベガルタのサポーターが感謝のメッセージを返したり。サッカーを通じてこんなに人が繋がれるんだって。試合前から本当にエモーショナルで、目頭が熱くなったのを覚えています」
ゲームは37分にフロンターレが先制したが、73分、左サイドからのパスを受けた赤嶺真吾が右に展開する。そこに走り込んできたのは、前日に千葉がコラムで取り上げた太田吉彰だった。
足を滑らせた太田のフィニッシュは、決してミートしなかったものの、相手DFの足に当たってコースが変わり、ゴールに吸い込まれていく。
その瞬間、ガッツポーズをした千葉の想像を超える展開が、その後に待っていた。
87分、相手陣内の右コーナー付近でFKを獲得する。ゆっくりとボールをセットした梁勇基のキックがファーサイドに飛んでいく。そこに鎌田次郎が飛び込んできた。ドンピシャヘッドで捉えたボールはポストに当たって跳ね返り、ゴールネットを揺さぶった。終了間際の大逆転勝利――。
「梁選手のFKの軌道、ジャンプした鎌田選手が頭で捉えたボールがゴールに吸い込まれるシーンは、今でも頭の中にスローモーションで再現できます」
その決勝ゴールの場面と同じくらい千葉にとって忘れられないのが、試合後の監督会見の様子である。