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「東北人は耐え忍ぶメンタリティを」宮城出身の番記者が心打たれた手倉森監督の人間力【2011年のベガルタ仙台】
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byToshiya Kondo
posted2021/03/11 06:02
ホーム再開となった浦和戦。キックオフ前の晴れ渡る空とともに勝利を手にした光景はチームもサポーターも報道陣も忘れない
手倉森監督の涙の会見後、拍手に包まれた
「目に涙を浮かべた手倉森(誠)監督の会見が終わったとき、フロンターレの番記者の方々も大勢いたと思うんですけど、会見ルームが拍手に包まれたんです」
一方、その後のミックスゾーンでは選手たちが誇らしい様子で熱を帯びたコメントを発していたはずだが、千葉の記憶は曖昧だ。
「とにかく必死にコメントを取っていたはずなんですけど、感動していたり、興奮していたりで、会見ルームにいたときのように鮮明には覚えてないんです。ただ、選手たちからは、達成感だけでなく、安堵感も伝わってきた覚えがあります。希望の光になるというのは、プレッシャーでもあったと思う。そのなかで結果を掴み取ったわけですから。コメントを聞いている僕も誇らしかったです」
ホーム開幕戦、コラムで再び攻撃のキーマン赤嶺を
浦和レッズとのホーム開幕戦を翌日に控えた4月28日の朝刊の〈燃えろベガルタ〉のコーナーでは、「気分一新 赤嶺高ぶる 内容よりも勝利を」という見出しで24番を背負うエースストライカーが取り上げられている。
「フロンターレ戦の前に太田選手、関口(訓充)選手を取り上げたのと同じように、攻撃陣が奮起して、勝ち点3を獲ってほしいという思いを込めました。特にFWはマルキーニョス選手が震災の影響で退団し、柳沢(敦)選手が手術をして戦線から離れてしまった。そのなかで赤嶺選手は大きな期待を背負っていたし、沖縄出身の彼が縁もゆかりもない仙台で奮闘してくれている。エールを送りたいと思ったんです」
ベガルタだけでなく、プロ野球の楽天イーグルスもホーム開幕戦を迎えたこの日は、仙台の街にとっても再スタートの日だった。東北新幹線が復旧し、仙台市営地下鉄南北線も南の富沢駅からベガルタのホームスタジアムがある泉中央駅まで繋がったのである。
1週間前とは一転、強い日差しがユアテックスタジアム仙台のピッチに降り注いでいた。千葉が真っ先に思い出すのは、やはり試合前の光景だ。
「スタンドのファン・サポーターが繋いだ手を天に掲げて、カントリーロードを歌ったんです。それが素晴らしい雰囲気で。その光景が、復興への一歩を踏み出せるような希望や連帯感を感じさせてくれて、胸に響くものがありました」
ゲームが動いたのは40分だった。ゴールラインを越えるかと思われたボールを拾った梁勇基のクロスに太田が頭で合わせて、ゴールネットを揺らす。このゴールが決勝点となり、ベガルタはクラブ史上初めてレッズに勝利した。
「日常生活を取り戻せない人たちがいるので生活情報も大事なんですけど、心が明るくなるような前向きなニュースは、生きるうえで支えになるはず。ベガルタの勝利を届けられることが、本当に嬉しかったです。この日、楽天も勝利したんですよね。ちょっと出来すぎだなって思いました」
こうしてリーグ再開後に2連勝を飾ったベガルタは、快進撃を続けていく。