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「あの宇和島東の鈴木って、誰?」大学恩師が語るマラソン鈴木健吾25歳、“無名”の高校時代から“日本新”までの10年間
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byJIJI PRESS
posted2021/03/01 17:03
2月28日びわ湖毎日マラソン。日本新記録で優勝した鈴木健吾(富士通)
「30kmの時点では、『優勝して欲しいな』という程度の期待でした。ただ、序盤から健吾は集団の中で、目立ちませんでしたよね。もともと身長が163センチですから、集団に入ると紛れてしまうんですが、目立たない時は、狙える時なんです。じっくり構えて、いちいち仕掛けにも対応しない。力を蓄えてるんです。そして35kmを過ぎて、これは『日本新記録行けるな』と興奮しましたし、2時間4分台の記録には、さすがにびっくりしました」
これまで、大後監督がコーチングしてきた神奈川大学の学生は700人ほど。どうやら、鈴木健吾は監督の理想とする「傑作」に近づいているようだ。
「こんなに早く結果が出るとは思っていませんでした。どれだけ努力しても、効率性がなければ、東アフリカ勢には太刀打ちできません。健吾はもともと技術力は高いですが、完成には時間がかかります。私としては、パリ・オリンピックの選考会で今回のような走りをしてくれればと思っていたんです。富士通の福嶋正監督をはじめ、スタッフのみなさんが健吾の力をどんどん引き出しているんだと思います」
これからは注目を集める立場となって、2024年のパリ・オリンピックを目指すことになる。大後監督は、追われることになったとしても、鈴木の性格がプラスに働くだろうと予想する。
「日本新記録が出て、私としてもうれしかったんですが、ちょっと心配になったんです。優勝インタビュー、大丈夫かなって(笑)。健吾は朴訥な人間ですし、ちゃんと話せるかなと。でも、立派でしたね。彼自身が朴訥さを大切にすれば、周囲の雑音に惑わされることなく、内なる戦いに向き合うことが出来ると思います」
教え子の日本新記録。
きっと、大後監督の晩酌も、充実の時だったに違いない。