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「ラーメン屋のほうが儲かったかも」“ヴェルディ川崎の天才”石塚啓次46歳、スペイン移住の厳しさを語る
text by
栗原正夫Masao Kurihara
photograph byDaisuke Nakashima
posted2021/02/20 17:04
2012年からスペインに移住した、元ヴェルディの石塚啓次46歳
「街を歩いていると空き店舗がめちゃくちゃ増えている。国からの補償もあるにはあるけど、オレに当てハマるものはない。唯一店の家賃が11月から1月にかけて半額になったけど、2月以降はどうなるかわからない。ウチの大家はケチやから」
現役時代は強烈な個性と物怖じしない強気な発言で知られた石塚も、これだけ長く続くコロナ禍ではどうしようもないと嘆く。
何度、店を畳もうと思ったことか――。状況を考えれば、弱気になるのも無理はない。
「正直いつやめても、という思いは頭にある。そもそも、バルセロナに来たのは海外移住みたいなカッコいい話やなく、日本でアパレルの仕事をやめて職がなくなったわけで“移民”やからね。店を始めたのも、家族を養っていかなあかんからやし。
この状況で日本に戻ることを考えないわけでもない。日本に戻れば最悪アルバイトでもできるかもしれへんけど、こっちにいたら何もできひんし。このご時世スペインで日本人を雇ってくれるわけないやろしね」
「ラーメン屋のほうが儲かったかも」なぜ“うどん屋”を選んだか?
それにしてもサッカー選手を引退後、自ら立ち上げたアパレルブランドで約7年代表を務め、現在はバルセロナでうどん屋とはさすがの振れ幅である。
「中高生の頃は古着ばっかり着て、ファッションは昔から好きやったし、現役時代も遊び仲間はスタイリストとかが多かったからね。知り合いもおったし、楽しそうに見えて、サッカーのあとはそれしかないかなって。いろいろあって服屋を一旦やめてどうしようかと考えたときは、1度外国に住んでみたい気持ちもあって、兄貴が元々バルセロナにいたのでビザが取れるかもしれへんということで一家で来ることに。来たときは、店をやるも何も決めてなかったけど、食うために働かなあかんし、スペイン語もできひんやつが何するかといったら黙って何か作るしかないからね」
海外で日本食レストランといえば、ラーメンや寿司のイメージが強い。バルセロナでも日本食、とくにラーメンは人気で、コロナ以前にはピーク時に行列ができる店がいくつもあったという。だが、石塚はうどんを選択した。