Overseas ReportBACK NUMBER
「多くの犠牲を払ってここまできた」製薬会社勤務の主婦が、大舞台・スーパーボウルで笛を吹くまで
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byGetty Images
posted2021/02/19 17:01
2月7日のNFLスーパーボウルで初の女性審判として笛を吹いたサラ・トーマス。2015年よりNFLの審判を務めている
製薬会社のセールスであり、母であり、審判であり…
高校時代にバスケットとソフトボールをしていたトーマスは、大学ではスポーツと学業で奨学金をもらいながら、バスケットボールの強豪選手として活躍した。
アメフトの世界に入ったのは大学卒業後、1996年のことだ。大学のアメフトの審判をしていた兄の影響で、講習会などに参加し始めたトーマスは、中学生、高校生の審判をしながら、技術を磨いていった。
製薬会社のセールスの仕事、3人の子供の母親、そして審判と3足のわらじを履きながらの生活は「大変だった。家族の支えがなかったらできなかった」と話す。
転機が訪れたのは2007年。
アメフトの審判界では有名なジェリー・オースティン(現在79歳)がトーマスの審判技術、コミュニケーション能力、試合で関わったチームのコーチ陣やほかの審判からの評価から、トーマスを大学の審判に推薦。トーマスはアメフト熱の高い南部の大学アメフトの審判の座についた。
「審判はルールだけではなく、試合の精神、向かう方向性を感じるセンスが必要。またコーチ陣に的確に説明するコミュニケーション能力がないといけない。サラは加えて、勇気あるジャッジをできる能力にも長けている」とオースティンは話す。
大学でも着実に力をつけ、2015年には女性初のNFLのフルタイム審判になった。
「長い道のりだった。ハードワークをし、多くの犠牲を払ってここまでやってきた。でも自分に負けずに努力し続けた結果だと思う」
スーパーボウルの翌日、トーマスは笑顔でそう語った。
余談だが、これまでトーマスは髪の毛を帽子に入れていたが、NFLはスーパーボウルにあわせてポニーテールしていてもかぶれる帽子をトーマスに支給するという、小粋な演出もしている。
審判やコーチが「男性でなければならない理由はない」
NFLだけではない。NBAも積極的に女性審判を登用していて、今季は5人の女性審判がフルタイムで働いている。1月25日のオーランド・マジックvsシャーロット・ホーネッツの試合では、ナタリー・セイゴとジェンナ・シュローダーの二人の女性審判が同じコートで笛を吹いた。