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「多くの犠牲を払ってここまできた」製薬会社勤務の主婦が、大舞台・スーパーボウルで笛を吹くまで

posted2021/02/19 17:01

 
「多くの犠牲を払ってここまできた」製薬会社勤務の主婦が、大舞台・スーパーボウルで笛を吹くまで<Number Web> photograph by Getty Images

2月7日のNFLスーパーボウルで初の女性審判として笛を吹いたサラ・トーマス。2015年よりNFLの審判を務めている

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及川彩子

及川彩子Ayako Oikawa

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Getty Images

 ガラスの天井――。

 米国では、社会や組織で女性が目に見えない制限を受けることを『ガラスの天井』に阻まれる、と表現する。その天井をアメリカンフットボールの世界で破った女性がいる。

 女性初のNFLのフルタイム審判員 サラ・トーマス。

「女だから上手くやったな」という声の一方で……

 トーマスは、2月7日に行われたスーパーボウルでダウンジャッジの大役を果たした。女性がスーパーボウルで審判をするのはNFL史上初のこと。この快挙に多くの人が祝福の声を寄せた。

 ジル・バイデン大統領夫人もその一人。「サラ、応援しているからね!」とツイートし、男女を問わず、「おめでとう。がんばって」という声が多く上がった。

 シーズン中から彼女が審判をしていた試合を見ていたアメフトファンは「彼女の笛は確かだよ」、「いい判断を下す審判だと思う」と技術面を評価する声があった一方で、「スーパーボウルは男性審判にとっても目標なのに、女だから上手くやったな」「失敗して目立たないといいけど」という意地悪な意見もチラホラ見られた。こういうネガティブな声が出るのは万国共通だろう。

 13歳の娘をもつ女性は「うちの娘も審判を目指しているけれど、他の子に『変なの』って言われることが多くて。でもサラのようなパイオニアが出てきて、女の子たちの大きな力になると思う。ありがとう」とSNSでつぶやいていたが、これまで女性の進出がなかった世界での快挙に刺激を受けた人は多かったようだ。

「彼女が自ら掴み取った権利だ」

 NFLフットボール運営部門副社長のトロイ・ヴィンセントは、トーマスが選ばれた理由をこう説明している。

「彼女の素晴らしいパフォーマンスはこれまでのたゆまぬ貢献と努力によるもの。彼女が自ら掴み取った権利だ。おめでとう。あなたはこの役割にふさわしい」

 トーマスは「(選ばれて)とても光栄。謙虚に職務を全うしたい」と公式声明を発表しているが、NFLオフィスからスーパーボウルの審判に選ばれたことを聞いたときは、飛び上がるくらいうれしかったという。

【次ページ】 製薬会社のセールスであり、母であり、審判であり…

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サラ・トーマス

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